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2023年3月31日(金)

きょうの潮流

 見る側の背筋がピンと伸びていく。きっぱりとした物言いと立ち居振る舞い―。どんな人物を演じても自身の人間性がにじみ出てくるような役者でした▼舞台や映画、ドラマ。戦後の演劇界で垣根をこえて活躍してきた奈良岡朋子さんが亡くなりました。めいで演出家の丹野郁弓(いくみ)さんは「冷静さと計算と感情を優れたバランスで持ち、表現できる」稀有(けう)な俳優だったと評します▼舞台で共演した仲代達矢さんは「繊細でこまやかな彼女の心理描写には学ぶことが多かった」。交流があった人たちは厳しくもやさしい芯の通った姿を口々に。生き方の指針にしてきたという後輩も▼「生き残りの十字架が私にはある」。15歳のとき空襲にあい、死体がごろごろと転がる焼け跡を感情もなく歩いた記憶。生と死のはざまを生き抜いて強く思ったのは、生きる権利は誰にもあるということ。それを脅かす動きには抗してきました▼晩年は、口を閉ざしてきた戦争体験を話しはじめ、声あるかぎり伝えていきたいと。ライフワークとしてきた「黒い雨」の朗読劇もその一つでした。本紙でも「核と戦争をなくすために、私は、私にできることを続けます」と語り、同じ反戦平和の志をもつ共産党に期待を寄せてくれました▼93年に及んだ人生の舞台に幕を下ろした奈良岡さん。生前に別れのメッセージを残していました。「新たな旅が始まりました。未知の世界への旅立ちは何やら心が弾みます」。戦争のない、自由で平等に生きられる世界を、あとに託して。


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