2023年3月27日(月)
主張
強制不妊被害訴訟
一刻も早く尊厳回復をはかれ
旧優生保護法(旧法=1948~96年)に基づき不妊手術を強制されたことは憲法違反だとして兵庫県内の5人が国家賠償を求めた訴訟で、大阪高裁は23日、国に賠償を命じました。原告の訴えを退けた一審の神戸地裁判決(2021年)を変更した逆転勝訴です。強制不妊を巡る訴訟で国の賠償を認めた高裁判決は4例目、地裁判決を含めると7例目です。旧法の違憲性を明確にし、賠償を命じる司法判断が相次いでいることを国は直視すべきです。岸田文雄政権は上告せず、被害者に謝罪し、名誉と尊厳の回復のために責任を果たさなければなりません。
原告勝訴の判決相次ぐ
大阪高裁判決は旧法について「特定の障害や疾患がある人を不良とみなし、子どもを産み育てるかどうかの意思決定の機会を奪った。極めて非人道的だ」としました。強制不妊手術が、憲法の13条(個人の尊重)と14条(法の下の平等)に反することは明白です。
神戸地裁判決も旧法は違憲としていました。しかし、不法行為から20年が過ぎると賠償請求権が消滅する「除斥期間」を厳格に適用して賠償を認めませんでした。
これに対し大阪高裁判決は「除斥期間」を適用しませんでした。▽国が旧法の違憲性を認めた時▽旧法を違憲とする最高裁判決が確定した時―のいずれか早い時期から6カ月が経過するまでは効果が発生しないとし、原告の起算点はまだ到来していないとしました。
これまで国に賠償を命じた地裁・高裁判決はいずれも「除斥期間」の適用を制限する判断をしました。それらは同種訴訟の提起を知ってから6カ月以内などとしていました。今回の大阪高裁判決が、従来の救済範囲を拡大した初判断を示したことは重要です。
判決は、原告らの賠償請求権の行使を困難にする状況をつくったのは国だとして、「除斥期間」の適用は「正義・公平の理念に反する」と指摘しました。国が旧法の違憲性を認めない姿勢についても批判しています。
全国優生保護法被害弁護団は今回の判決について、現時点で提訴できていない人も含めた被害者の被害回復をするべきだという国に対する「強いメッセージ」と評価する声明を発表しました。
強制不妊を巡る訴訟は全国の11地裁・支部で起こされました。19~21年に出された6地裁判決では「除斥期間」を厳しく適用するなどし、賠償は退けられました。
22年2月の大阪高裁判決は「除斥期間」の適用を制限して請求権は消えないとし、「壁」を崩しました。22年3月の東京高裁判決では救済の幅を広げました。23年1月からは3地裁と2高裁で原告の5連勝となっています。被害者、弁護団をはじめとする粘り強いたたかいが情勢を切り開いています。
国は解決を引き延ばすな
強制不妊手術を推進してきた政府、立法行為に関わる国会の責任が問われています。
被害者全員に対して人生の被害をまかなうに足りる賠償をすることが急がれます。現在の一時金支給法ではあまりに不十分です。法改正が不可欠です。
岸田首相が速やかに被害者に謝罪するなど、真摯(しんし)な対応が求められます。裁判中に亡くなった原告は少なくありません。全面解決は一刻の猶予もありません。