2023年3月16日(木)
きょうの潮流
87年の人生の大半を拘置所の中で過ごしました。いくら無実を訴えても犯人と決めつけられる。証拠をでっち上げられ、自白を強要され、死刑におびえる日々。どれほどの無念だったか▼1966年、現在の静岡市清水区で、みそ製造会社の役員の自宅が放火され、一家4人が殺害されました。事件発生から2カ月後、従業員で当時30歳だった袴田巌さんが逮捕され、80年に最高裁で死刑が確定されました▼長時間の尋問、脅迫や非人間的な扱い、無理やり自白させられる様子は弁護団に開示された取り調べの録音テープからも明らかに。『袴田事件・冤罪(えんざい)の構造』の著者でジャーナリストの高杉晋吾さんは「長期拘留、拷問、任意でない自白、証拠の捏造(ねつぞう)と冤罪強制の手法そのものであった」▼その後の裁判が二転三転したのも証拠が疑わしいから。今回、東京高裁が裁判のやり直しを認めたのも主要な証拠とされた、みそ工場のタンクから見つかったという衣類について「捜査機関の者による可能性が極めて高い」との疑惑からです▼袴田さんを支えてきた姉ひで子さんは「57年間たたかってきて本当によかった。巌に真の自由をあたえてほしい」と▼長年の拘禁生活で心を病み、いまは「妄想の世界」にいるという袴田さん。日常を紹介するブログには今月10日に誕生日を迎えた巌さんが夢見る世界のことを語っています。「平和な世界だね。悪のない世界になろうというんだがね。人間社会、善だけで生活できるようにしようということだね」








