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2023年3月15日(水)

きょうの潮流

 大江健三郎さんは、言葉のひとでした。自宅の居間や書斎で寸暇を惜しんで本を読み、原稿を書く。残された巨大な言葉の森。その中で、忘れられない言葉が二つあります▼一つは2004年7月の「九条の会」発足記念講演会でのものです。「私は、人間が身近に死者を受け止め、自分の死についても考えざるをえないときに、倫理的なものと正面から向かいあうと考えています」。だから戦争直後こそ、日本人がかつてなく数多くの死者を抱え、もっとも倫理的になった時だったと▼そして憲法と教育基本法は「じつに数多くの死者の身近な記憶に押し出されるようにしてつくった」ものであり、「文体に自然な倫理観がにじみ出ていることにも注目したい」と語りました▼もう一つは05年7月、「九条の会」有明講演会での結びです。大江さんは若いひとたちにこの詩を贈りたいと、アメリカの詩人の詩の一節を、少しアレンジして紹介しました。「求めるなら変化はくる、しかし、決して君の知らなかった仕方で」▼続けて参加者にこう呼びかけました。「私たち古い世代の知らなかった形でこの国に変化がありうる、と。そして、その変化を求めていただきたいと私は願っております」▼戦後民主主義者であることを誇りとした大江さん。その小説は、現代の窮境を生きる人間の救済がテーマでした。現代日本の最大のテーマとして憲法とヒロシマと沖縄について語り続けました。その言葉はこれからも私たちとともに生きていくでしょう。


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