2023年3月10日(金)
きょうの潮流
軽快な音楽が流れるなか、日本の上空へと向かうB29。次々と投下される爆弾と焼夷(しょうい)弾。炸裂(さくれつ)音とともに舞い上がる炎と煙。その下でどれほどの人びとが逃げ惑っていたか▼公開中のドキュメンタリー映画「ペーパーシティ」は米軍機が撮影した映像から始まります。東京を拠点にするオーストラリア人の監督が追った、東京大空襲の記憶と生存者の活動。「歴史上最も破壊的な空襲」であったにもかかわらず、被害を伝え継ぐ公的な施設がほとんどないことに疑問を抱いたと▼78年前のきょう、一夜にして10万人もの命を奪った無差別爆撃。各都市にも及び、おびただしい市民が犠牲となりました。家族や家を失った人たちも、生活を再建するために必死でした。しかし政府は空襲被害者の調査も謝罪も救済もしていません。元軍人や軍属には補償があるのに▼老いてなお国の責任を問う被害者たち。映画で証言した3人もこの世を去りました。命あるかぎりの運動には、二度と戦争を起こさせないという固い誓いがあります▼過ちの忘却とのたたかい。江東区の戦災資料センターでは今年も犠牲者の名を読み上げる集いが開かれ、東京大空襲の体験記をまとめた『戦災誌』刊行50周年の企画展も行われています▼都民が編んだ惨禍の記録集。それを支援した当時の美濃部亮吉都知事は一文を寄せました。「底知れぬ戦争への憎しみとおかしたあやまちを頬冠(かぶ)りしようとするものへの憤りにみちた告発は、そのまま、日本戦後の初心そのものである」








