2023年2月9日(木)
主張
米一般教書演説
同盟強化より平和秩序擁護を
バイデン米大統領が、就任後2回目となる一般教書演説を上下両院合同会議で行いました。ロシアによるウクライナ侵略からまもなく1年を迎える中、演説で強調したのは、「民主主義対専制主義」という二項対立の世界観に基づき、台頭する中国との競争に勝利するための米国内の結束、そして軍事同盟の強化でした。戦争終結のために求められている、国連憲章の下での国際社会の広範な結集と、国際秩序の維持・擁護の呼び掛けはありませんでした。
対中競争で力の優位誇示
昨年11月の中間選挙で下院の多数派を野党・共和党に奪還されたバイデン氏は、新議会で共和党と協力が可能な分野を探るべく、演説の大半を国内問題にあてました。そうした中でも、昨年の一般教書演説に比べて力を込めたのが、中国との競争に関する言及です。
バイデン氏は、ロシアのウクライナ侵略をめぐって北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする同盟国・有志国を米国が結束させてきたとした上で、対中国の文脈でも「同盟国はさらに金を出し、多くのことを担い、取り組みを強めている」と誇示しました。自身の就任後の2年間で「民主主義国家」が強くなる一方、中ロをはじめとする「専制主義国家」は弱体化しつつあるとし、「中国だろうと、他のどの国との競争だろうと、米国はこの数十年間で最も強い立場にある」と述べました。
これは、国連のグテレス事務総長が今年の優先課題について総会演説(6日)で呼び掛けた政策転換の方向性とは、対比をなす国際秩序の姿です。
グテレス氏は、米科学者団体が毎年発表する、人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」が今年ついに過去最短の90秒に迫ったことに触れ、各地の戦争、気候変動、格差、核兵器の脅威、地政学的分断の全てが悪化の一途をたどっていると指摘しました。この針路の修正のためには、国連憲章と世界人権宣言を出発点に据え、政策転換を図るべきだと訴えました。
バイデン氏は演説で、米国の軍事・経済・技術力への投資と、軍事同盟の強化を繰り返した半面、国連と国連憲章を中心にした国際秩序を維持・擁護する場面は一度としてありませんでした。
ウクライナ侵略をはじめ、世界が直面する課題を解決するには、国連を中心とした多国間主義に基づく、各国の広範な協力が不可欠です。結局、バイデン氏が目指しているのは、世界における米国の覇権の維持です。競争と同盟強化では、世界のブロック化と不信の増幅にしかつながりません。
新自由主義の行方で対立
バイデン氏はこの2年間、大型財政出動によって国民の暮らしを支援するコロナ救済策や格差是正に取り組んできましたが、富裕層・大企業に対する増税は、共和党の反対でほとんど進展してきませんでした。共和党は政府歳出の削減を求めており、バイデン氏が演説で社会保障の削減にはくみせず、大企業・富裕層増税を改めて提案した点は、長年の新自由主義路線の手直しが余儀なくされていることを示しています。ただ、そうした国内投資・支援策が共和党の中国強硬姿勢に迎合し、対中競争力強化の観点から進められるなら、バイデン氏の国民向け公約は看板倒れに終わりかねません。








