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2023年2月7日(火)

主張

長崎「黒い雨」被害

国は被爆者と認めて救済せよ

 長崎の原爆投下で被害を受けたにもかかわらず、国の指定地域外だったことを理由に被爆者と認められていない「被爆体験者」について、厚生労働省が、被爆者援護法での救済対象でないとする見解を先月まとめました。広島の原爆被害で国は「黒い雨」被害に遭った人を被爆者と認定した司法判断を受け入れ、条件付きでの救済に踏み出しました。長崎の被害者を差別する岸田文雄政権に失望と怒りの声が上がっています。

許されない広島との差別

 厚労省見解(1月16日付)は、長崎県が昨年7月に国に提出した「長崎の黒い雨等に関する専門家会議報告書」に対するものです。同報告書は、1999年度に県と市が行った調査での証言集などを再検証した結果、国の指定地域外でも「黒い雨」が降った客観的な記録はあり、認定できると結論付けました。また、降雨だけでなく、「降灰、塵(ちり)も含めて当時放射能を帯びていた『放射性降下物』として全体像を捉える必要がある」と指摘し、広い救済の重要性を強調しています。

 厚労省見解は、被爆体験者の救済を退けた最高裁判決(2017年)などを挙げ、「黒い雨」はなかった、最高裁判決と整合性をとるためだと認定拒否を正当化しました。しかし、長崎県報告書は、最高裁判決を検証した結果、「黒い雨」の健康被害の有無についての判断は示しておらず、被爆体験者を被爆者と認めても判決と矛盾しないことを明らかにしています。最高裁の判例にこだわる厚労省見解に道理はありません。

 広島高裁は21年、広島への原爆投下直後に国の指定地域外で「黒い雨」が降り、被害があったとして原告全員を被爆者と認める判決を言い渡しました。放射能により健康被害が生じることを否定できないことを立証すれば、疾病の発症がなくても救済するという判断です。被害を矮小(わいしょう)化し、不当な線引きで被害者を切り捨てる国の被爆者援護行政の転換を迫る画期的な判決でした。

 判決受け入れを求める世論が高まり、当時の菅義偉政権は上告を断念し判決は確定しました。また、原告と同じような事情の人は訴訟参加の有無にかかわらず、救済できるよう検討するとした首相談話を閣議決定しました。

 長崎の被爆体験者は、首相談話が示した「同じような事情」の人です。ところが、厚労省は22年3月に決めた新しい認定基準では、対象を広島の被害者に限定しました。長崎県・市は、広島高裁判決を踏まえ、長崎を差別しないよう強く求めていました。新たに確定した司法判断を一顧だにせず、切実な声に耳を貸そうとしない岸田政権の姿勢は重大です。

これ以上引き延ばすな

 長崎の被爆体験者は約6千人です。被爆者より医療費支給の対象は限定されています。23年度から対象疾患を増やすとしましたが、被爆者援護法の下での救済とは程遠いものです。

 広島で行われている新しい基準による認定も、がんなど11疾病の有無を要件に加えており、被害者の全面救済に至っていません。認定されない人もおり、要件の撤廃は欠かせません。

 原爆投下から78年、被爆者の高齢化は進んでいます。これ以上の引き延ばしは許されません。


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