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2023年2月1日(水)

米と一体 先制攻撃に 憲法と「専守防衛」覆す

敵基地攻撃能力 志位委員長の追及

 日本共産党の志位和夫委員長は31日の衆院予算委員会で、戦後の安全保障政策を根底から覆す「安保3文書」の核心部分、「反撃能力」=敵基地攻撃能力の違憲性・危険性を真正面から追及しました。

「3文書」との矛盾

歴代政権の答弁と整合性なく岸田首相は事実上答弁不能に

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(写真)質問する志位和夫委員長(左)=31日、衆院予算委

 「まずただしたいのは、敵基地攻撃能力の保有は日本国憲法にてらして許されるのかという根本問題だ」―。志位氏は、敵基地攻撃能力は憲法違反だとしてきた歴代政権の答弁と安保3文書との矛盾を追及。岸田首相は事実上、答弁不能に陥りました。

「保有は憲法の趣旨ではない」59年答弁との矛盾

 志位氏は、敵基地攻撃に関して確立した憲法解釈である1959年3月19日の伊能繁次郎防衛庁長官(当時)答弁を紹介しました。

 「他に全然方法がない」と認められる場合に限り、敵基地攻撃は「法理的には可能」とした上で、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っていることは憲法の趣旨ではない」、すなわち保有は「憲法違反」と整理しています。この解釈に立てば、敵基地攻撃能力の保有はできません。

 志位氏は26日の衆院本会議で「同解釈を変更したか」とただしましたが、岸田首相は、「敵基地攻撃は法理上可能」とした56年2月の鳩山一郎首相(当時)答弁に言及したものの、伊能答弁については答弁を避けました。そこで志位氏は改めて「(59年の)憲法解釈を変更したのか」と追及しました。

 これに対して岸田氏は「変更していない」と断言。その論理は、「安全保障環境が変わった」ため、米軍の打撃力への依存だけでは周辺国のミサイル脅威に対応できないというものです。

 これに対して志位氏は、99年8月の野呂田芳成防衛庁長官(当時)答弁が、敵基地攻撃能力の保有は「国連の援助や日米安保条約もない」などの場合など現実に起こりがたいことを想定したものであり、「平素からわが国が他国に攻撃的な脅威を与えるような兵器を保有することは適当ではない」と断定しており、伊能答弁について「現在でも当てはまる」と再確認していることを指摘しました。

 岸田首相は「安全保障環境が変わった」と繰り返すばかりで、伊能答弁との整合性は説明できませんでした。

「相手の基地を攻撃しない」72年見解との矛盾

 敵基地攻撃能力保有に乗り出しながら、「『専守防衛』を堅持する」と繰り返し主張している岸田首相。志位氏は「専守防衛」に関する確立された政府見解である、72年10月31日の衆院本会議での田中角栄首相(当時)の答弁を紹介し、見解をただしました。

 同答弁は専守防衛について、「もっぱらわが国土及びその周辺においての防御を行う」ことだと定義。「相手の基地を攻撃することなく」と述べ、「敵基地攻撃」を明確に否定しています。「『専守防衛』と敵基地攻撃は両立しないことは、この答弁でも明らかではないか」―志位氏は追及しました。

 これに対して岸田首相は「相手の基地を攻撃することなく」ということは「海外派兵は一般的に憲法上許されない」ことを示したものだと趣旨をゆがめて正当化。「反撃能力(敵基地攻撃能力)は憲法、国際法、国内法の範囲内で行う。『専守防衛』は堅持する」と繰り返しました。

 志位氏は「全く答弁になっていない。田中首相答弁は『相手の基地を攻撃しない』のが『専守防衛』だと定義している。敵基地攻撃能力は保有するけど『専守防衛』は堅持するというのは明らかに矛盾するではないか。これでどうして敵基地攻撃ができるのか」と厳しく追及。首相は同じ答弁を繰り返し、事実上、回答不能に陥りました。

1959年3月19日 伊能繁次郎防衛庁長官答弁

「誘導弾等による攻撃を防御するのに他に全然方法がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれており、また可能である」「しかしこのような事態は今日においては現実の問題として起こりがたいのであり、こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っていることは、憲法の趣旨とするところではない。かようにこの二つの観念は別個の問題で、決して矛盾するものではない」

1972年10月31日 田中角栄首相答弁

「専守防衛ないし専守防御とは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行うということであり、これはわが国防衛の基本的な方針だ」

長射程ミサイル保有

相手国に「脅威」を与える兵器 地域の緊張と対立激化させる

 志位氏は、違憲の敵基地攻撃を担う「スタンド・オフ・ミサイル」について、「他国に脅威を与える」兵器だと強調。安保3文書が「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」としていることと「根本的に矛盾している」と追及しました。

 3文書の一つ「防衛力整備計画」は、(1)従来のものより大幅に長射程化する「12式地対艦誘導弾能力向上型」(2)長射程で極超音速飛行する「高速滑空弾(能力向上型)」(3)マッハ5以上の極超音速で飛行し、迎撃を困難にする「極超音速誘導弾」(4)アフガニスタン戦争、イラク戦争などで先制攻撃に使われた米国製の長距離巡航ミサイル・トマホーク―といった長射程ミサイルの導入を明記しています。

 志位氏は、これらの大量導入・開発と、ミサイルを搭載する戦闘機、護衛艦、潜水艦の大増強が敵基地攻撃能力保有の実態だと告発し、「『他国に脅威を与える』ことはないと、どうして言えるか」と追及。長射程ミサイルの射程距離をただしましたが、浜田靖一防衛相は「明らかにすればわが国の具体的な防衛能力を明らかにすることとなるためお答えできない」として回答を拒みました。

 志位氏は「射程距離を明らかにしないこと自体が相手国にとって脅威になる」と批判。報道では、1000キロから最大3000キロになり、中国や北朝鮮の主要都市が射程内におさまるとして、「『他国に脅威』を与える兵器そのものだ」と強調しました。

 「スタンド・オフ・ミサイル」のなかでも重要な位置づけを与えられているのが「極超音速誘導弾」です。防衛装備庁が作成した敵基地攻撃能力獲得後の「将来像」の図は、極超音速誘導弾が「空母の飛行甲板等を撃破可能な貫徹弾頭、または地上目標を面制圧可能な高密度EFP弾頭」を持つとしています。

 「面制圧」は、「点」=ピンポイントではなく、まさに相手国の広い領域を軍事的に制圧することです。

 志位氏は、海上自衛隊の3等海佐が同兵器について、中国やロシアが開発を進めていることは、日本にとっての「脅威」だと述べていることを紹介。「中ロが持つことが『脅威』で、日本が保有することが『脅威』にならないとどうしていえるのか」と迫りました。

 首相は「大切なのはこうした兵器をどう運用するか」だと主張。日本の大軍拡について、主要7カ国(G7)を含む欧米諸国など国際社会は「理解し、評価をしている」として「他国の脅威にならない」と強弁しました。

 志位氏は、首相の言う「国際社会」とはG7、アメリカを中心とした軍事ブロックのもとにある世界にすぎないと反論し、「脅威」に対し「脅威」で対抗することがエスカレートすれば「最後には核兵器を持たなければならなくなる」と指摘しました。

 元防衛大学校教授が論考で「抑止の要件の一つは敵対国に対する威嚇」「抑止の本質は、昔も今も恐怖である」としていることを引用。「相手国に脅威を与える敵基地攻撃能力保有で『抑止力』を強めながら、『他国に脅威を与えるような軍事大国にならない』というのは、根本的に矛盾している」として「専守防衛に徹し」とうたっている安保3文書の実態は「『専守防衛』を完全に投げ捨てるものであることは明らかだ」と迫りました。

 志位氏は「『専守防衛』を投げ捨てることは軍事対軍事の悪循環を作り出し、地域の緊張と対立を激化させ、有害極まりない。絶対に許されない」と批判しました。

表 図

IAMD

同盟国に「融合」を求める米国 自衛隊の「独立した行動」ない

 「米軍と自衛隊が『融合』するように一体化するもとで、敵基地攻撃能力が使われる」。志位氏は米軍の資料を示しながら、敵基地攻撃能力の危険性を告発しました。

 志位氏は、1月に行われた日米首脳会談や日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同声明で、敵基地攻撃能力を「米軍との緊密な連携の下」で「効果的に運用」するために協力強化を確認したと指摘。その重要な取り組みとして安保3文書に盛り込まれたのが、敵基地攻撃とミサイル防衛を一体化させた米戦略「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)だと強調しました。

 IAMDの基本原則を示すものとして志位氏は、米統合参謀本部の文書「対航空・ミサイル脅威」(17年4月)を提示。同文書はIAMDについて、相手国領域で攻撃する「攻勢対航空作戦」を重要な柱と位置付けており、二つの重大な問題があると強調しました。

 第1は、攻撃目標にミサイル発射拠点や軍用飛行場だけでなく、「指揮統制機能」や「インフラストラクチャー」(基地を支える道路、港湾、空港など)も含まれていることです。第2は、「敵の航空機やミサイルを離陸や発射の前と後の双方において破壊または無力化する」、「先制的にも対処的にもなる」などと明記し、先制攻撃を公然と宣言していることです。

 志位氏が米国のIAMDの基本原則について知っているのか尋ねると、岸田首相は「指摘のような方針を示していることは承知している。それとてアメリカが国際法違反の先制攻撃を堂々とやるのはありえない」と強弁。志位氏は、米国は戦後、先制攻撃戦争を繰り返し、グレナダ侵略(1983年)やリビア爆撃(86年)、パナマ侵略(89年)に対しては国連総会で「国際法違反」との非難決議が上がっていると指摘。「日本政府は一度も米国の武力行使にノーと言ったことがない。そのだらしのない政府が『米国は先制攻撃をやらない』と言っても誰も信用しない」と批判しました。

 また岸田首相は、「わが国がIAMDに参加する、統合されることはない。わが国の統合防空ミサイル防衛と米国のIAMDは別物だ」と弁明。これに対して志位氏は、米インド太平洋軍の「IAMD構想2028」を示して、反論しました。

 それによれば、IAMDの強化は、広大なインド太平洋地域では米国単独では不可能で、「同盟国や友好国が絶対に重要だ」と指摘。同盟国との協力を「隣に並んでの(サイド・バイ・サイド)統合」ではなく、「切れ目のない(シームレス)融合」にし、「アマルガム」(合金)のようにすべきだと強調。そのために「全てのプレーヤー・コーチが、同じプレーブックを持ち、一緒に訓練し、一緒に作戦を実施し、敵から一つのチームとして見られる」ことが必要で、米軍と自衛隊の完全な一体化を求めています。

 志位氏は「首相がいくら『自衛隊は独自にやる』と言っても、『シームレスな融合』が米国の方針だ」と強調し、自衛隊だけ独立した指揮系統で行動するのはありえないと指摘。「合金」のように米軍と「融合」した自衛隊が「同じプレーブック」で米軍の先制攻撃戦争に参戦することになり、「憲法違反であるだけでなく、国連憲章と国際法違反の無法な戦争に乗り出すことになる」と批判しました。

米「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)の基本原則

  • 攻勢対航空作戦の攻撃目標ミサイル・サイト、飛行場、指揮統制機能、インフラストラクチャー
  • 敵の航空機やミサイルを離陸・発射の前と後の双方において破壊または無力化する
  • 攻勢対航空作戦は先制的にも対処的にもなる

米インド太平洋軍IAMD構想2028

  • インド太平洋軍の広大な管轄では、同盟国や友好国が絶対に重要
  • 同盟国と「サイド・バイ・サイド統合」ではなく、シームレスな融合を
  • すべてのプレーヤー、コーチが、同じプレーブックを持ち、一緒に訓練し、作戦を実行。敵からは一つのチームとみられる

「日本を守る」ためか

報復攻撃による国土の焦土化 戦争ではなく平和の準備こそ

 志位氏は、首相は敵基地攻撃能力の保有は「日本を守る」ためだと繰り返すが、安保3文書は、集団的自衛権を行使する場合も敵基地攻撃能力を行使できると明記しており、先制攻撃の戦争であっても、自衛隊は米軍と融合し、敵基地攻撃を加えることになると指摘。「その結果は、相手国の報復攻撃による国土の焦土化だ」と警鐘を鳴らしました。

 志位氏は、安保3文書が「南西地域の防衛体制の強化」を強調していると指摘。大軍拡の最前線に立たされようとしている沖縄では強い批判があがっており、石垣市議会が昨年12月に採択した意見書で「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない」と批判したと指摘。「沖縄の声をどう受け止めるのか」と迫りましたが、首相は「わが国の防衛のために行うものだ」とまともに答えませんでした。

 志位氏は「九条の会」呼びかけ人で評論家の故・加藤周一さんが「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。平和を望むならば、平和を準備した方がいい」と語ったことを示し、岸田政権の大軍拡計画の撤回を重ねて主張しました。

沖縄・石垣市議会の意見書

「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長射程ミサイルを石垣島に配備することは到底容認することはできない」

加藤周一さんの発言 2005年11月27日

「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。もし平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。平和を望むならば、平和を準備した方がいい。戦争を準備しないほうがいいです。準備は、容易に本当の戦争の方へ近づいていく」(シンポジウム「自民党改憲案は日本をどこに導くか」)


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