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2023年1月21日(土)

社会リポート

末期がん避難者に市営住宅退去迫る大阪市

「保護終わり」脅して“指導”

尊厳かけ裁判たたかう

 福島原発事故で関東から大阪市に避難してきた女性が、市から市営住宅の退去を迫られ、余命宣告を受けながらも人としての尊厳をかけて裁判をたたかっています。(喜田光洋)


写真

(写真)入居する市営住宅の前でたたずむ新鍋さん=大阪市内

 「大阪市に人間扱いされませんでした」

 新鍋さゆりさん(50代)=仮名=は言います。

 2011年の原発事故による放射能汚染の不安から大阪市に自主避難し、市から割り振られた市営住宅に入居。建て替え時に住民が一時入居する「事業用住宅」でしたが、知らされませんでした。以前から生活保護を受給しています。

 08年からうつ病を患い、避難生活のなかで悪化。16年には末期のがんが判明し、医師から余命2年から3年と告げられました。

 17年3月末の公営住宅無償提供打ち切りに伴い、市の都市整備局は事業用住宅に住む避難者に明け渡しを要求。一方、一般の市営住宅の避難者は有償になるものの継続入居が認められました。

 「言われたところに入ったのに、私たちは『出ていけ』で、一般の市営住宅に入った人は今も住めている。同じ市営住宅で…」

人権無視

 新鍋さんは心身の状況から転居は無理で、住み続けるしかありませんでした。医師から病状悪化の恐れのため体に荷重がかかる動作などは控えるよう注意されていました。

 入居期限の17年3月末からは、生活保護の担当者による人権無視の転居指導が始まりました。

 新鍋さんが月1回、区役所に保護費を受け取りに行くと、担当者に毎回約1時間引き止められ、「引っ越さなければ生活保護は今月で終わり。違法に住んでいるから」などと脅されたといいます。

 あるとき「病院があるから」と“指導”を断ると、担当者は保護費が入った封筒を引っ込めて「それならあげられない」。「もう行かなくては」と言うと「じゃあ、いらないんやな」。“指導”は1年近く続き、市は文書による転居指導指示も2度行いました。

 「アホ、のろま、グズとも言われました。裁判で意見陳述したとき、怒りと悔しさ、みじめさがこみあげて、原稿を持つ手がものすごく震えました」

決意して

 市は不法占有だとして、18年7月に明け渡しを求め大阪地裁に提訴。一方、新鍋さんは違憲・違法の転居指導指示で深刻な精神的苦痛を被ったとして市に損害賠償を求め同12月に提訴。両裁判は一本化され、和解協議(不成立)と新鍋さんの病状から弁論期日が空きましたが、近く再開の予定です。

 新鍋さんは21年に別の精神疾患を発症し、障害1級の重度障害と認定されています。当初は表に出ませんでしたが、ここにきて自ら声を上げようと決意しました。

 「私は市に訴えられたことを知られたくなかった。でも大阪市にさんざんいじめられて、思い出すと今でも体が震えるほど怒りを感じます。このままでは死ねません」

 市都市整備局の担当者は本紙に「相手の状況を踏まえ、裁判は強引に進めていない」と言いながら、「転居先が決まれば和解に応じる」とあくまでも“転居ありき”です。「末期がん患者を退去させる裁判を続けるのか」と問うと「現状では進める」と回答。生活保護の訴訟担当者は「係争中なので答えられない」としています。


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