しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2023年1月20日(金)

きょうの潮流

 大河のように流れる小説を書きつづけた作家は自伝につづっていました。「さまざまな物語は縦の時間軸と横にのびる空間軸とをもって、読者をひきつけ、楽しませなくてはならない」▼小説は自由な世界である。その自由のさなかに、小説家は、独自の物語と文体と思想で作品を書き上げる―。それを実践した加賀乙彦さんはフィクションの世界に制限をつけました。現実世界を独特のリアリズムで描き出す、と▼『帰らざる夏』『永遠の都』『雲の都』。創作の原点となったのは、みずから体験した戦争でした。最初の記憶は二・二六事件のころ。12歳の時に太平洋戦争が勃発し、陸軍幼年学校で敗戦を迎えました▼戦後の医学生時代にはセツルメント運動(貧困者支援活動)に参加。貧困を目の当たりにして社会の矛盾に目を開かされていったといいます▼「ぼくらが少年時代に教わった政治と軍隊の世界は、人間を幸福にするものではなかった。人間は自由に生きていいけれど、人を傷つける、殺すことはやめろという思いで小説を書いてきた」。本紙日曜版に語った思いです▼作家として精神科医としての発言は今の政治にも向けられて。「日本は戦後、戦争を卒業したはずなのに、最近の政治をみていると、それが怪しくなっています。戦争の準備のために、税金を湯水のように使うのは容認できません」。軍事費よりも文化にお金を使う国こそが、本当に強い国だとも。時代と人間に正面から立ち向かった作家の“遺言”をかみしめたい。


pageup