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2023年1月1日(日)

日曜版新年合併号 新しい政治つくる旗掲げ

延命と保身の暴走政治は限界

志位委員長にズバリ聞く

元朝日新聞政治部次長 ジャーナリスト 脇正太郎さん

 岸田政権が閣議決定した「安全保障3文書」は何が問題なのか。戦争の心配のないアジアをどうつくるのか。岸田政権とどうたたかうのか―。日本政治の熱い焦点の問題について元朝日新聞政治部次長でジャーナリストの脇正太郎さんが日本共産党の志位和夫委員長にズバリ聞きました。

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しい・かずお=1954年千葉県生まれ。90年に書記局長、93年衆院選で初当選(衆院議員10期目)、2000年から幹部会委員長。著書に『改定綱領が開いた「新たな視野」』、『綱領教室』全3巻(いずれも新日本出版社)など

 

わき・しょうたろう=1954年神奈川県生まれ。時事通信社を経て、89年朝日新聞社入社。社会部次長、政治部次長、電子電波メディア局次長など歴任し、2014年退職。現在ネットメディア「メディアウオッチ100」に参画

岸田政権とどうたたかう

  あけましておめでとうございます。

 志位 おめでとうございます。

  まずは岸田政権の評価から伺いたい。僕は発足当初、岸田(文雄)首相は自民党リベラル系譜の「宏池会」出身だし、「民主主義の危機」と表明したことで、安倍・菅政権の強権政治を変えると大いに期待していました。

 志位 二人の前任者があまりに攻撃的で威圧的な雰囲気を全身から発散していただけに(笑い)、多少は温和な政治になるのかなという期待の向きもあったと思います。ところが期待は幻想だった。大きな転機は安倍晋三元首相の「国葬」の強行でした。国民の6割が反対していたのに強行した。「何が『聞く力』か」と岸田政権の正体を国民が見抜いたように思います。

  今ではもう落胆の日々です。敵基地攻撃能力の保有や防衛費のGDP(国内総生産)比2%など「専守防衛」の国是まで破壊しました。もはや安倍政権のタカ派・強行路線の継承者と受け止めています。

 志位 継承者というのはその通りですね。ただ、安倍元首相は「海外で戦争する国づくり」という彼なりの「めざす国家像」がありました。そのために秘密保護法、安保法制、共謀罪法をつくっていった。

  確信犯でしたね。

 志位 確信犯だったわけです。しかし岸田首相を見ていると、首相にはなりたかったが、なったあとで「こんな国をつくりたい」という「信念」のようなものを感じない。

 では彼の行動原理は何か。政権の延命と保身です。そのためなら何でもやってのける。安倍政治にこびを売って「国葬」を強行する。アメリカに忠誠を誓って敵基地攻撃能力の保有と大軍拡に踏み出す。財界に忠誠を誓って原発政策でも、“新増設・リプレース(建て替え)はしない”という従来の政府方針をひっくり返す。「信念」もなく、保身のために安倍政権すらできなかったことを、涼しい顔をしてやろうという。

  延命と保身のために“逃げる”という特徴もありますね。昨年の臨時国会では敵基地攻撃能力の保有をはじめ「安全保障3文書」(以下「安保3文書」)について野党の質問をはぐらかし続けました。

 志位 「信念」がないから説明もしないで“逃げる”。「安保3文書」は、文書自身ものべているように戦後の日本の安全保障政策の大転換です。それなのに選挙で信を問うこともしない、国会の議論もしない、「閣議決定」だけで決めた。民主政治の堕落そのものです。

 同時に、昨年末の世論調査での内閣支持率の急落に示されるように、説明なき暴走の政治は、いよいよ限界にきていると思います。ここは野党の頑張りどころです。野党が「岸田政権打倒」の断固たる決意と対案を示し、新しい政治をつくる旗を掲げていく年にしていかなければなりません。まずは4月の統一地方選挙で岸田政権への審判を下し、解散・総選挙でも「信を問え」と迫っていく年にしていきたいと思います。

脇さん安保3文書 “力対力”の強行姿勢が露骨

安保法制を上回る危険がある3文書

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撮影・野間あきら記者

  岸田政権が閣議決定した「安保3文書」には、ロシアによるウクライナ侵略を利用して「力対力」の政策を強行する姿勢が露骨に出ていますね。志位さんはどう読みましたか。

 志位 一言で言って、「専守防衛」を完全にかなぐり捨て、「戦争国家づくり」の暴走をいよいよ進めようという文書になっています。「安保3文書」は冒頭に「戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換するもの」だと記しています。

 これはどういうことか。2015年の安保法制の強行で、集団的自衛権を行使して「海外で戦争する国」の「法制面」での枠組みはできた。今回の「安保3文書」は、それを担う自衛隊の能力の抜本的強化――敵基地攻撃能力の保有と軍事費の倍増という「実践面」の整備を行うというのです。

 この点では、「安保3文書」は、安保法制を上回る危険がある。安保法制は、法律を廃止すれば元に戻れますが、「安保3文書」は実行されたら元に戻すのははるかにたいへんです。

憲法と立憲主義の破壊になっていく

  そうですね。かなりウソつきなんです。大転換をしながら「専守防衛は不変」なんて書いてある。どこが「専守防衛」なのか。

 志位 そこが第一の論点になってくると思います。つまり、憲法と立憲主義の破壊、「専守防衛」の完全否定になっていくということです。

 「安保3文書」の最大の新しい踏み込みは、「反撃能力」の名で敵基地攻撃能力を保有することです。これは従来の政府の憲法解釈を百八十度覆すことになります。

 政府は、敵基地攻撃については「法理的には…可能」(1956年2月)だが、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」(59年3月19日)と答弁してきました。敵基地攻撃能力のような“他国に攻撃的脅威を与えるような武器の保有”は憲法解釈の大変更になるわけで、憲法違反です。ところが「安保3文書」にはなぜ解釈を変えるのか、一言も書いていない。憲法にもとづく政治の否定――立憲主義の破壊です。

脇さんウソつくなよと。怒りに震えました

「専守防衛」は二枚舌

 志位 「安保3文書」は恥知らずにもこう書いてある。「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」

  ウソつくなよと言いたいですね。(笑い)

 志位 よくこんなことが書けますね(笑い)。軍事費倍増とは、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になることです。敵基地攻撃のために他国本土も攻撃できる長射程巡航ミサイル・トマホークを500発も持つ。これが「他国に脅威を与えるような軍事大国」でなくて何なのか。

 “他国に脅威を与えない”と言いながら敵基地攻撃能力保有で脅す。こういうのを「二枚舌」というんです。「安保3文書」の大ウソの一つが、「専守防衛に徹する」です。

  「安保3文書」のこの部分で怒りに震えました。

「自国守る」も大ウソ

  日本には原発が林立しているのに、報復される事態を避ける展望はなく、標的にされれば大惨事を覚悟しなければならない。こんなことは誰でもわかることです。

 志位 おっしゃる通りです。「安保3文書」には、もう一つ、大ウソがあります。敵基地攻撃能力の保有は「自分の国を自分で守る」ためのものだというものです。これも大ウソです。

 何のための敵基地攻撃能力保有か。本命は、米軍が地球規模で行う戦争に、自衛隊が敵基地攻撃能力を使って、肩を並べてたたかう。ここにある。「安保3文書」は、安保法制で集団的自衛権を行使する場合にも、敵基地攻撃能力は使えると、はっきり書いてあります。

 つまり、日本に対する武力攻撃がないもとで、米軍が始めた戦争に、集団的自衛権を発動して参戦する。その時に、敵基地攻撃能力を使って相手国本土まで攻め込む。トマホークなどの長射程ミサイルを撃ち込む。そうすればどうなるか。甚大な報復攻撃を招くことは火を見るより明らかです。「日本を守る」どころか、日本を全面戦争に巻き込むのが「安保3文書」の行きつく先です。

  「自分の国は自分で守る」は大ウソですね。かつて中曽根(康弘元首相)さんが“日本は米国の不沈空母”と言いましたが、それをほうふつさせます。岸田政権は米国の戦争で日本の国土が焦土化されても構わないのか。

脇さんただ、敵基地攻撃能力保有で世論は拮抗

二つのウソを暴き平和の対案示す

  ただ世論調査では敵基地攻撃能力保有への賛否は拮抗(きっこう)しています。

 志位 うーん。国民の不安が背景にあるのだと思います。ただ、いまお話しした“二つのウソ”――「専守防衛に徹する」のウソ、「自分の国は自分で守る」のウソを明らかにしていけば、必ず世論は変わると思います。

 もう一つは、後でもお話ししますが、どうやって戦争の心配のない東アジアをつくるかという「外交ビジョン」を明らかにしていく。“二つのウソ”を暴くことと、平和の対案を示すこと、そして国民の共同したたたかいで、世論は必ず変えられる。

  メディアはしっかりしなくてはなりません。

 志位 「しんぶん赤旗」はいよいよ活躍のしどころです。

大軍拡推進で暮らし犠牲は避けられない

  軍拡増税が話題です。メディアがさかんに自民党内で増税反対論が出ていると報じたけれど、(軍事費をGDP比)2%にするとか、敵基地攻撃能力保有に反対すると言ったうえで、増税にノーなら、論理的にすっきりするんですけれどもね、それを言わないのは本質を避けた議論だと思う。

 志位 本当にそうです。大軍拡をやめればすむ話です。大軍拡を進めるかぎりは、どんなにごまかそうと、どんな手段を用いようと、大増税と暮らしの予算の削減は必至になります。

 政府は、復興特別所得税の半分を軍事費にあて、この仕掛けの期間を延長するとしています。復興のためのお金を詐欺的に流用したうえ、さらなる庶民増税を進めるというものです。「歳出改革」といっていますが、どこを削るかは具体的には何一つ決まっていません。

  確実に社会保障費がやり玉にあがるでしょうね。

 志位 すでに、高齢者の医療費窓口負担の2倍化など医療・介護・年金の大改悪が次々に行われてきました。社会保障費の大削減がさらに加速することは必至です。

  岸田首相は“子ども予算倍増”と言っていましたが、その議論は一体どこに行ったのか。

 志位 こっちは先送りです。それと「防衛力強化資金」とあるのがくせものです。

  新しくつくる仕掛けですね。

 志位 そうです。これがひどいのは、医療関係の積立金やコロナ対策費の「未使用分」など、本来は医療や暮らしにあてるべき予算を流用しようとしていることです。医療関係者はかんかんに怒っています。

 そして「国債」の増発です。「防衛費に国債は使えない」という政府見解をかなぐり捨てるものです。「戦時国債」が日本の侵略戦争の拡大を支えたという歴史の反省を完全に踏みつけにして国債の増発をしようというものです。絶対に許されません。

  戦前の悲惨な歴史から学んでいない。ありえない財源構想ですね。

数兆円単位の大増税の危険が

 志位 それにくわえて、増税以外のいまいったいろいろな「財源確保策」は予定通りいく保証がない。「防衛力強化資金」は一度使えば枯渇する「埋蔵金」のようなもので、恒久財源にはなりません。「決算剰余金」も「財源」にするというが…。

  「決算剰余金」は補正予算に使ってきたものですよね。補正予算の財源はどうなるんですか。打ち出の小づちでもあるのかと言いたい。

 志位 本当に何を考えているのか(笑い)。結局、軍拡増税は「1兆円超」ではすまなくて、数兆円単位に膨れ上がる可能性があります。

 もう一つある。大軍拡は5年後の2027年で終わりではありません。「3文書」は「10年後までに、より早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する」と記しています。“さらなる大軍拡を進めるぞ”と宣言している。お金がいくらあっても足らない。

  そうなれば消費税増税を言いだすうえ、「国債」の増発で戦時国債の悪夢が再来しますね。

 志位 そうです。この道を進めば、消費税大増税が現実のものとなり、暮らし・福祉の予算は大削減され、経済は泥沼に落ち込んでいく。“軍栄えて民滅ぶ”の日本に絶対にしてはなりません。

脇さん共産党が打ち出す外交ビジョンとは?

アジアに包摂的な平和の枠組みを

  共産党が打ち出されている「外交ビジョン」、東アジアのすべての国を包摂する平和の枠組みをつくっていくというのは素晴らしいと思うんですけれども、具体的にお話しいただけませんか。

 志位 私たちの「外交ビジョン」の基本に据えている考え方は、(1)あらゆる紛争を国連憲章にもとづき平和的な話し合いで解決する、(2)あれこれの国を排除するのではなく、地域のすべての国を包摂(インクルーシブ)する――こうした原則にたった平和の枠組みを築くことです。

 こういう方向を現に実践しているのがASEAN(東南アジア諸国連合)なんです。いまASEANは、加盟10カ国プラス日米中ロなど8カ国で構成する東アジアサミット(EAS)を強化して、東アジア規模の友好協力条約を展望する、大構想―ASEANインド太平洋構想(AOIP)を推進しています。昨年11月のASEAN首脳会合でも、AOIPの取り組みをメインストリーム(主流)にすえて進めていこうと決めています。

 私たちの提案は、憲法9条を持つ日本こそが、ASEANと協力して、現にある東アジアサミットという枠組みを生かして、AOIPという提案を共通の目標にすえて、地域のすべての国を包摂する平和な枠組みをつくっていこうというものなんです。

  なるほど。日米安保条約はどう位置づけるのですか。

 志位 この地域には日米、米韓、米豪の軍事同盟があります。日本共産党としては国民多数の合意で日米安保条約の解消を求めますが、「外交ビジョン」は、軍事同盟に対する態度の是非を超えて協力していこうというものです。

岸田政権の“外交は軍事”とは何か

  岸田政権には「外交」で平和を実現する構想が見えてきませんね。

 志位 「安保3文書」を読んでいくと、「危機を未然に防ぐ…外交を中心とした取組」という項があるんですが、その筆頭は「日米同盟の強化」とある。

  “外交とは軍事なり”という発想ですね。

 志位 次の項目は、「自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国等との連携」ですが、その中身は、「FOIP」(自由で開かれたインド太平洋)や「日米豪印(クアッド)」など、事実上の中国包囲網をつくっていこうという構想です。あれこれの国を排除(エクスクルーシブ)して包囲していけば、地域の分断と緊張を激化させるだけです。

アジア政党国際会議が開催

ブロック政治回避 平和の本流示す

  “力に頼らない平和への道”をアピールしないといけない時だと考えるのですが。

 志位 昨年11月、トルコのイスタンブールでアジア政党国際会議(ICAPP)というアジアのすべての合法政党に開かれた国際会議がありました。私も出席して、私たちの「外交ビジョン」について発言しました。最終日に採択された「イスタンブール宣言」には、「ブロック政治を回避し、競争よりも協力を強調する」という内容が盛り込まれたんです。私たちの構想と一致する方向が、アジアの政党の総意として確認された。

 いまアジアで軍事同盟は三つしかありません。日米と米韓と米豪です。東南アジアにあったSEATO(東南アジア条約機構)も、中東にあったCENTO(中央条約機構)も解体しました。アジアは圧倒的に非同盟・中立です。「ブロック政治をやめよう」というのがアジアの主流になっているときに、最悪の「ブロック政治」をいまだに続けているのが日本なんです。

  日本にいると軍事ブロックが解体していることになかなか気がつきませんね。

 志位 ブロック政治、軍事ブロックが当たり前だという空気がある。自民党はこの国際会議に出てないんです。

  誰もいなかったんですか。

 志位 自民党にも招待状はいっているはずなのに、出てこない。「外交は重要」と言いながら、外交不在・軍事偏重を象徴していると感じました。

欧州左翼党大会に参加

大軍拡と軍事同盟反対で欧州と連帯

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(写真)欧州左翼党大会で発言する緒方氏=12月10日、ウィーン(吉本博美記者撮影)

  ヨーロッパとの連携の可能性はどうでしょうか。

 志位 ヨーロッパでは、ウクライナ侵略が起こるもと、「欧州のNATO(北大西洋条約機構)化」と呼ばれる軍事ブロック強化・大軍拡の動きが起こっています。私たちがこの間の外交で心強かったのは、そうした難しい情勢のなかでも、それに反対する流れも存在しているということです。

 昨年11月、緒方靖夫副委員長を団長に、欧州各国を訪問し、左翼・進歩政党との交流と連携を強化する新しい努力を行ってきました。さらに、12月に欧州23カ国の左翼・進歩政党で構成される欧州左翼党の第7回大会(オーストリアのウィーン)が開催され、日本共産党も招待されて、代表団が来賓として参加したんです。

 緒方さんが発言し「軍事ブロック強化と軍事費大幅増に共同して反対しよう」と呼びかけたのですが、大歓迎を受けました。新議長となったワルター・バイアーさんは、就任演説で緒方さんの呼びかけに呼応するスピーチを行い、大会で採択された決議には「より公平で平和な世界は軍事同盟ではなく、政治的な合意で築くべきだ」「劇的な軍事費増額にストップを」と明記されたんです。

 ユーラシア大陸の東西で大軍拡の逆流が起こっているもとで、これを許さない連帯と協力の関係を強めていきたいと思います。

脇さんかつての自民リベラルが「専守防衛」破壊

90年代の自民党は幅と奥行きあった

  自民党リベラルといわれてきた「宏池会」出身の岸田首相が「専守防衛」を破壊するもとで、平和外交を説く日本共産党こそがいまやリベラルの体現者になっているように見えます。

 志位 「宏池会」で思い出すのは、かつて会長を務めた加藤紘一さん(元衆院議員、16年死去)が自民党幹事長だった90年代に、テレビで毎週のように“自共対決”の論戦をやったことです。当時、私は国会議員になりたての書記局長でしたが、「正面論争で共産党に打ち勝てる自民党じゃないと明日はない」という気迫を加藤さんから感じました。

  議論が大好きな人でしたね。

 志位 立場はもちろん違いますが、熱のこもった討論で互いに通い合うものがありました。

 その加藤さんが衆院議員を引退した後、彼の番組に呼ばれて対論(07年)したことがあるんです。第1次安倍政権が提唱した「価値観外交」が話題になって、私が「価値観で分断するのは良くない。包摂が必要でASEANは現にそうしている」と話したら、加藤さんも「まったくそうだ」「共通の価値観と言えば、共通でない価値観はどこだとなる。これは良くない」と、意気投合したことを思い出します。いま私たちが主張している、地域のすべての国を包摂する平和の枠組みに通じる発言です。

  今の自民党には加藤さんのような人物がいなくなりましたね。もし加藤政権が誕生していたら、自民党は別の形になっていたでしょう。

 志位 90年代までは自民党は幅を持っていました。加藤さんのような方もいて懐も深かったし、論争しても議論がかみ合って実に面白かった。2000年代に入ると、それがだんだん弱くなってきて、安倍さんが首相になってからは幅も奥行きも全くなくなってしまい、モノトーンの“独裁”政党になってしまいました。

  僕もかつて「朝日新聞」の名刺を持って自民党の政治家に取材に行くと「おまえらは敵性メディアだ」とか言いながら(笑い)、なんだかんだ論争をしたがる。議論しながら情報をとるのが僕らの仕事だったんですが、今は排除されてしまう。(笑い)

 志位 取材の場面でも自民党の劣化を感じていると。(笑い)

 「宏池会」出身の政治家といえば、引退された河野洋平さん(元官房長官、元衆院議長)もとても印象深い方です。河野さんは自民党が政権を失った宮沢政権の事実上最後の日に官房長官として従軍「慰安婦」談話(1993年8月4日)を出しました。談話を出さず頬かむりすることもできたでしょう。しかし“政府として慰安婦のみなさんの調査をしてきた以上、出さなきゃいけない”と、筋を通して発表した。河野談話は今でも大きな値打ちがあります。自民党落城の日に発表したのは、河野さんの一つの大きな見識だったと思います。

「専守防衛をかなぐり捨てた大軍拡許さない」大運動を

  いまの「宏池会」や自民党をみていると、かつて後藤田正晴さん(故人・元官房長官)が憲法9条改正をめぐって“戦争体験を知らない世代が、知らないがゆえに、過去の歴史の教訓に思いを致さず、安全保障や防衛で前に進み過ぎる”と警鐘を鳴らしていたことを思い出します。保守的な人たちのなかにも「安保3文書」や岸田政権に対し「冗談じゃない」と怒りを募らせている人もいると思うんです。支持を広げられませんか。

 志位 「専守防衛」を壊し、軍事費を2倍にしていくやり方は「いくらなんでも反対だ」という方はたくさんいらっしゃると思うんです。今年はそうした方々と広く協力して、「専守防衛をかなぐり捨てた大軍拡は許さない」の一点で国民的な大運動をやっていきたい。それを通じて市民と野党の共闘の再構築をぜひはかっていきたいと考えています。

脇さん統一協会の政治への影響は

反動化をすすめた影響計り知れない

  統一協会が政治に及ぼした影響についてどうお考えですか。

 志位 歴史で見ることが大事だと思います。統一協会が日本で本格的に根を持つようになったのは68年です。笹川良一、児玉誉士夫、岸信介という3人の元A級戦犯容疑者が発起人になって国際勝共連合を日本でつくりました。これが自民党と統一協会=勝共連合の癒着の出発点でした。

 これ以来、自民党は統一協会=勝共連合を反共と改憲の先兵として利用し続けました。一方、統一協会=勝共連合は、自民党の庇護(ひご)の下に「霊感商法」をはじめとする反社会的行動を拡大していきました。

 さらに、70年代から80年代には、統一協会=勝共連合との癒着が自民党という政党全体に広がっていきます。70年の京都府知事選での反共策動、73年の東京都議選での「自由社会を守れ」という反共キャンペーン、そして78年の京都府知事選挙では、反共策動の前面に勝共連合が登場し、自民党府政を復活させました。

 さらに、2000年の総選挙です。最終盤に正体不明の謀略ビラがものすごい規模でまかれました。当時、委員長だった不破(哲三)さんや、書記局長だった私の顔の写真を載せ、「暴力革命だ」という調子で…。当時は出所不明だったのですが、勝共連合自身が出した年表に2000年の総選挙で反共キャンペーンをやったのは自分たちだと書いてありました。

  自慢げに?

 志位 自慢げに書いてあります。(笑い)

 そして、第2次安倍政権(12~20年)です。15年に統一協会が名称変更をします。安倍元首相は、統一協会を利用して参院比例票の「票」の差配までしていました。底なしの癒着関係がさらに広がりました。

 自民党は、日本の政治の反動化と反共のためにこの勢力を利用し、また利用されてきました。日本の政治をどれだけ悪くしたかは計り知れません。

 歴史的癒着の全貌を徹底的に明らかにするまで頑張ります。

「反共デマは統一協会と同じ」と批判が

  統一協会とたたかってきたのは共産党だとアピールすることで、信頼獲得や反共をはねのけることができませんか。

 志位 それはあると思います。政府は相変わらず「日本共産党は暴力革命」とのデマを繰り返しています。全くのデマですが、そういうデマが出てきたときにネット上では「自民党の言っていることは統一協会と同じ」「自民党は統一協会の手下か」という批判が起こりました。

 統一協会がとんでもない反社会的団体だというのは、かなりの国民の共通認識になっています。その団体が「反共」の突撃隊でもあった。そういうなかで「反共」をうさんくさく感じる人が増えている。統一協会と正面からたたかってきた日本共産党への信頼も感じます。「共産党へのデマ攻撃は統一協会と同じ、統一協会の思うつぼ」と言いやすくなりましたね。(笑い)

脇さん政策の根幹は「内部留保を賃上げ支援に」

異常円安の三重構造―内需活発にする政策へ大転換が必要です

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(写真)「くらし応援・北区支援市」で食料を選ぶ青年たち=11月26日、札幌市北区

  暮らしや経済の問題で共産党は、企業の内部留保への課税を財源にして中小企業の賃上げ支援に充てるといいます。これが経済政策の根幹になりますか。

 志位 今の物価高騰の大きな要因として異常円安の問題があります。異常円安がなぜ起きているかを考えると、直接には、アベノミクスの「異次元の金融緩和」という金融政策の失敗があります。

 しかし、それだけではありません。破綻しているのは金融政策だけでなく、自民党の経済政策の全体であり、それが日本経済全体をもろく弱いものにしてしまっている。

 いま貿易赤字が広がっています。昨年10月のデータでは2兆円以上の赤字で、赤字は15カ月連続です。1979年以降では最大の貿易赤字幅です。円安になれば、普通は輸出企業の競争力を強くするのに、日本の製造大企業の多くはすでに海外に生産拠点を移しているために、円安にもかかわらず輸出が伸びず、貿易赤字が拡大している。エネルギーと食料を海外に頼る政策を続けていることも、貿易赤字を拡大させている。貿易赤字が広がっていく国は、自国の通貨を外貨に交換する需要が高くなり、その通貨は安くなるのです。

 さらに根本には、日本が長期にわたって、「賃金が上がらない国」になり、そのために「成長ができない国」になってしまっている。成長できないことが「日本売り」を招いているのです。

 金融政策の失敗、構造的な貿易赤字、経済全体の停滞―。三重構造が積み重なって異常円安が起きています。

 経済政策の大転換が必要です。その処方箋は、金融頼みをやめて実体経済をよくする、特に内需を活発にすることです。そのカギは、賃金を上げるための実効的な政策を断行することと、消費税減税に踏み込むことにあります。

物価高騰を上回る最賃のアップを

ドイツやフランスは1年で最賃を3回上げた

  先進国で何十年も賃金水準が上がっていないのは日本だけです。

 志位 そうですね。この20年間で見て、OECD(経済協力開発機構)の中で、他の主要国は1・2倍から1・4倍に賃金を増やしているのに。日本だけ下がっています。直近でも、物価高騰が世界的に起こる中で、ドイツやフランスは22年に3回も最低賃金を上げています。

  それは知りませんでした。

 志位 中小企業支援をやりながら最賃を3回上げています。ドイツやフランスの最賃の水準は1600円から1700円です。日本はまだ1000円以下でしょう。ものすごい差がついてしまっています。

 いま、どこの国でも物価が上がっています。物価以上に賃金を上げることが一番の力になる。そういう立場で最賃を上げているのです。そのとき日本は“すずめの涙”しか、しかも年1回しか上げない。これでいいのか。ドイツやフランスのように何度でも上げる。物価上昇以上に最賃を上げる。そのために中小企業支援に思い切ってお金を入れる。財源は大企業の内部留保への時限的課税で持ってくる。こういう大胆な「構造的な賃上げ」をやらないと、この苦境から脱することはできないと思います。

  共産党が掲げる消費税の5%への緊急減税を賄う財源は何ですか。

 志位 富裕層と大企業優遇の税制を正します。法人税などは安倍政権時代に28%から23%まで下げました。それを、中小企業を除いて元に戻せと言っています。バイデン政権も、トランプ政権が21%まで下げた法人税を28%まで戻せと言っています。“日米協調で法人税をもとへ戻せ”と。軍拡のためにではなく、消費税減税のために法人税を上げるべきです。

脇さん共産党は創立101年 成果は?

戦前・戦後・沖縄―歴史が決着つけた

  共産党は今年結党101年です。100年で成果と胸を張れるものは何ですか。

 志位 成果として胸を張れるものはたくさんあります。

 戦前、侵略戦争に反対し、国民主権の旗を掲げてたたかいました。たくさんの犠牲を伴いましたが、結果は日本国憲法に実りました。これは歴史が決着をつけたと思っています。

 戦後は、旧ソ連、中国による干渉とのたたかいです。1950年、旧ソ連のスターリンと中国による乱暴な干渉がおこなわれ、党が分裂に陥るという不幸な出来事がありました。この問題を解決する過程で、「日本の運動の進路は自分たちで決める」という自主独立の路線を確立し、60年代以降の旧ソ連、中国・毛沢東派による干渉攻撃を打ち破って、最後は両方に間違いを認めさせました。こういう党は世界に他にありません。これも歴史が決着をつけたと言っていいと思います。

 もう一つは、沖縄の問題です。戦後、日本共産党と連帯してたたかった沖縄人民党は三つの旗を先駆的に掲げました。一つは祖国復帰、二つは沖縄を米国に売り渡したサンフランシスコ条約3条の廃棄、そして日米安保条約の廃棄―。三つの旗を掲げ、日本共産党は連帯してたたかいました。本土復帰は実現し、サンフランシスコ条約3条も“立ち枯れ”にさせました。三つのうち二つまで実現しました。党史の中で特筆すべきことだと思います。

  100年の経験を踏まえ、これだけは絶対に変えないというものはありますか。

 志位 資本主義は人類が到達した最後の社会制度ではなく、その先に進めるという理想と、それを表した日本共産党という名前を次の100年も掲げてたたかいたいと考えています。

野党共闘を再構築へ 国民運動の発展と党を強く大きく

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(写真)軍拡の道を許すな、改憲反対と抗議行動する人たち=12月19日、衆院議員会館前

  政権交代のたたかいで、野党共通政策を見直すことはありますか。

 志位 21年の総選挙、22年の参院選で市民連合のみなさんの尽力もえて確認した野党共通政策があります。選挙で公約したもので、次の選挙まで責任を持つのが当たり前だと私たちは考えています。この政策を土台にして発展させたい。

 共闘の再構築をめざして、大軍拡を許さず、暮らしを守っていくという大きな共同のたたかいを、今年はぜひ、つくっていきたい。

 そして、何といっても、強く大きな日本共産党をつくり、まずは統一地方選挙で勝ち、来年1月に予定している第29回党大会までに、党組織を1・3倍に拡大することに全力を注ぎたい。

 市民と野党の共闘が始まったのは15年です。14年から15年にかけて安保法制反対で大きな国民的たたかいが起こりました。そしてもう一つ、日本共産党が13年の東京都議選と参院選、14年の総選挙で連続して躍進する流れの中で、野党共闘がつくられていきました。

 共闘を再構築するには、国民運動の発展と日本共産党が強くなることがどうしても必要です。

  世代交代の取り組みは進められていますか。

 志位 私たちの事業を、将来の世代に引き継いでいく世代的継承の取り組みを、党をあげて行っています。

 日本民主青年同盟という私たちと協力関係にある青年組織が、昨年1700人を超える同盟員を増やし、目標(1500人)を超過達成しました。民青をどんどん広げる中で、青年党員、学生党員を増やしていく活動にもうんと力を入れていきたい。次の世代にバトンタッチできる土台を築いていきたいと決意しているところです。

  がんばっている人に「がんばれ」という必要はないでしょうが、いまが踏ん張りどころでしょう。

 志位 ありがとうございます。来年1月の党大会にむけて、この1年は党員と「しんぶん赤旗」読者を増やすとりくみに、ありとあらゆる知恵と力を注ぎたいと強く決意しています。そういう流れのなかで統一地方選挙でも必ず勝利・前進をかちとりたい。どうか日曜版読者のみなさんにも、お力をお貸しいただきたいと心からお願いするものです。


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