2022年12月28日(水)
経済読み解き 「貯蓄から投資へ」(下)
損失を顧客へ不当転嫁
日本でオンライン金融取引を行うIG証券の収益は急成長しています。英国IGグループの年次報告書によれば、2022年度の日本での収益は9850万ポンド(約157億円)。21年度の6870万ポンドから43%伸びました。
IGグループは、業績好調の理由の一つは「ターゲットを絞って有名な俳優を起用し、ブランドを確立して新しい顧客を呼び込んだ」ことだと強調しています。CM動画を使って若年層を取り込んでいるとみられます。
元本の10倍も
IG証券が扱う金融取引の中心は、現物を保有せずに原油や金などの売買差益を狙う商品差金決済取引(CFD)です。IG証券とのニッケル取引で不当な損害を被ったB氏は「商品差金決済取引は若者にとってパチンコのかわりになっている」とみます。「4千円の証拠金で4万円の取引を行うこともでき、大きな利益を得られる可能性があります。しかしリスクも大きく、個人投資家がもうけるのは簡単ではありません。英国のIGグループのホームページでは、投資家の77%が損をしていると注意を促しています」
B氏に対するIG証券の対応から二つの問題点が浮かび上がります。第一は、IG証券が自社の利益のために取引のルールをゆがめており、違法行為の疑いがあることです。
IG証券が扱う商品差金決済取引は「相対取引」(市場を介さず売り手と買い手が直接行う取引)です。IG証券自身が取引の当事者となり、顧客との間で価格や取引量を決めます。B氏がニッケル取引で利益を得れば、IG証券に損失が生じます。この損失を回避するために通常、金融商品取引業者は第三者に「カバー取引」を発注します。B氏にニッケルを売る場合、第三者からニッケルを買うのです。これで損益は帳消しとなり、手数料収入を稼げます。
ロシアのウクライナ侵略後にロンドン金属取引所(LME)は、高騰したニッケルの取引を停止した上、成立した取引まで取り消す異例の措置を取りました。このためカバー取引ができなかったというのが、IG証券がB氏との取引を取り消した理由です。B氏が売ったニッケルをもう一度買った扱いにすることで取り消しが完了すると強弁しています。
B氏は「カバー取引はIG証券のリスク管理の問題です。私との取引には何の関係もない。仮にIGグループがLMEの行為で損失を被ったとしても、私に転嫁するのは筋違いです」と憤ります。
「私が売ったニッケルをIG証券は買い、取引が成立しました。成立した取引を一方的に取り消し、私が注文していないニッケルの買いを成立させたのは無断売買であり、悪質な違法行為です。商品先物取引法は、顧客の注文を確認せずに取引業者が無断売買を行うことを禁じています」
有利な仕組み
IG証券が顧客の意向を無視した取引を強行できるのは、オンライン取引システムの管理者だからです。システム管理者が取引当事者になり、自社の都合で取引ルールをねじ曲げています。
第二の問題点は、顧客との間で結んだ不当な約款を理由に、IG証券が違法の疑いのある行為を合理化していることです。約款には「甲(IG証券)は、自らの自由裁量により、当該取引を最初から無効と見なす」ことができるとの規定があり、無効とする根拠は無限定です。個人にも法人にも同じ約款が適用されており、B氏と同様の被害が広範に及ぶ恐れがあります。
B氏の相談を受けて経済産業省・金融庁・公正取引委員会に申し立てを行った椎名麻紗枝弁護士は「IG証券は優越的地位を利用して、日本の法令を無視した約款の適用を顧客に強要している」と指摘。国民全体のためにも事態を放置できないと話します。
「岸田政権は国民の金融資産2000兆円を投資へ誘導する目標を掲げ、海外資産運用業者の参入を促進すると表明しています。海外資本が無軌道に参入すれば、日本国民の資産が収奪される恐れがあります。法的規制を強めるべきです」
IG証券は違法の疑いに関する本紙の問い合わせに回答しませんでした。(おわり)








