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2022年12月27日(火)

経済読み解き 「貯蓄から投資へ」(上)

外資が勝手に取引決める

 岸田文雄政権は「貯蓄から投資へ」国民の資産を誘導する政策を「新しい資本主義」の主柱に据えています。しかし投資の現場では、正当に成立した取引を外資系法人が一方的に取り消し、顧客に損害を与えた例もあります。実態を知る弁護士は「国民の資産が外資の食い物にされる恐れがある」と指摘します。(杉本恒如)


 東京都中央区銀座の投資会社の幹部B氏は3月、会社の業務として行ったオンライン金融取引(インターネットを介した金融取引)をめぐって「前代未聞」の事件に巻き込まれました。

利益確定後に

 ニッケルを買っていたB氏は、ロシアのウクライナ侵略後に価格が高騰した局面で売却し、利益を確定させました。すると取引相手の金融商品取引業者が翌日、すでに成立した取引を取り消すと通告してきたのです。さらにB氏は注文を出していないのに、高騰した価格でB氏がニッケルを買ったという取引を、業者側が勝手に成立させました。その後の価格暴落でB氏は巨額の損失を被りました。

 B氏の取引相手は日本法人のIG証券株式会社。親会社は「オンライン金融取引のグローバルリーダー」を自称する英国のIGグループ(1974年設立、本社ロンドン)です。世界各国に24の事務所を置き、38万人以上の顧客を抱えます。

 日本のIG証券は2002年に別の会社名で設立され、08年にIGグループの傘下に入りました。経済産業相と農林水産相から商品先物取引業の許可を得て、09年5月から「商品差金決済取引」を開始しています。

 差金決済取引(CFD)とは、商品の受け渡しや対価の支払いを行わずに売買差益を得ることを目的とした取引です。株式指数や原油など、さまざまな商品を投資対象とし、現物を保有することなく売買を行います。

 例えば、値上がりを予想してニッケルを買う場合、ニッケル取引の総額より少額の証拠金(担保)を差し入れれば取引が成立します。その後、任意の時点でニッケルを売却して決済を行います。ニッケルが値上がりしていれば利益が出て顧客資金に加算され、値下がりしていれば損失となって顧客資金から減算されます。差し入れる証拠金を大きく上回る取引額となるため、利益も損失も膨らみます。値下がりを予想して「売り」から取引を始めることもできます。

 IG証券は動画共有サービス「YouTube」(ユーチューブ)上にCM動画を流し、顧客獲得を図っています。若者に大人気の有名俳優を起用し、さわやかな語り口で投資を推奨しています。「もし目に映るすべてが投資の対象になれば、投資は変わる。どんな状況でも、チャンスをつかめる。IG証券のCFDは、株から金、原油まで取引可能。攻める人に、新しい投資を」といった調子です。人気俳優の出演するCMの再生回数は1000万回を超えています。

法令より約款

 IG証券は差金決済取引で約1万7000銘柄を扱っており、国内業者で圧倒的な銘柄数を誇ります。ニッケルの差金決済取引を扱うのもIG証券だけです。市場で独占的地位を築いています。

 B氏は「ニッケルの取引にあたってはIG証券を選ぶしかありませんでした」。しかしIG証券の約款は顧客に不利な内容になっているといいます。

 「日本の法令より約款を上に置いているのです。IG証券に完全な自由裁量があり、取引の取り消しや変更もできる。『おれが決めたことは何でも通る』というやり方です」

 (つづく)

 (2回連載です)


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