しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2022年12月24日(土)

米要求に応じた大軍拡 敵基地攻撃に踏みこむ

命守る現場・技術 ないがしろ

2023年度政府予算案

 岸田文雄政権が23日に閣議決定した2023年度の政府予算案は、軍事費2倍化を実現するため、同予算を過去最大の約26%増とする一方、社会保障など国民生活を犠牲にするものとなりました。

科学・技術を軍事動員

防衛省の研究開発費は3.1倍に

グラフ

 岸田文雄政権が16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」は、「有事と平時」、「軍事と非軍事の分野の境目も曖昧(あいまい)になっている」などという口実で、民生用の最先端科学・技術の軍事動員を強調しました。

 同戦略は「民生用の技術と安全保障用の技術の区別は実際には極めて困難」だとして、「安全保障に活用可能な官民の技術力を向上させ、研究開発等に関する資金及び情報を政府横断的に活用する」と政府一丸の体制づくりを提起しています。

 このもとで防衛省は23年度予算案で、装備技術分野の「研究開発」費を22年度比で3・1倍となる8968億円(契約ベース)を計上。憲法違反の敵基地攻撃能力となる「スタンド・オフ防衛能力」や、「統合防空ミサイル防衛能力」を大幅に強化します。

 民生分野や政府の科学・技術投資で得られた研究の成果を「装備品」や「防衛用途」に取り込むための橋渡し研究を拡充するとして188億円を盛り込み、民生技術の将来的な軍事転用を見込んだ「安全保障技術研究推進制度」に過去最高水準の112億円を計上しています。

 また、国家安全保障戦略は、米国の対中国戦略に日本を巻き込む「経済安全保障」の政策推進をうたいました。政府は大量破壊兵器やミサイルなど軍事に転用可能な次世代半導体の開発・製造拠点を整備する方針。「半導体・デジタル産業戦略」を23年中に改定し、巨額の補助金拠出を狙います。

 政府は、軍事・非軍事の手段を組み合わせた「ハイブリッド戦」を重視しています。サイバー攻撃やSNSを通じたプロパガンダ(宣伝戦略)の「情報戦」で軍事的優位に立つことを目的に市民に対する監視強化を狙います。そのために防衛省の諜報(ちょうほう)機関・情報本部の機能強化を推進。法務省は、23年度予算案で「経済安全保障体制・サイバーセキュリティ対策等」の推進を目的に公安調査庁の「人を通じた情報収集」などの体制強化に32・4億円を計上しました。

コロナ対策など削減

感染症・社会保障抜本強化に背

 23年度予算案の社会保障関係費は22年度比6154億円増で過去最大の36兆8889億円です。しかし、3年近いコロナ禍のもとで「自宅療養」中に相次いだコロナ患者の在宅死や、絶対的な人手不足などで疲弊している医療・介護現場の窮状に正面から応えない不十分な内容です。むしろ社会保障費の抑制に躍起です。

 新型コロナの感染拡大「第8波」の中にもかかわらず、コロナ対策に限っていた予備費はすでに別の使途にも広げ、22年度比で1兆円減らします。22年10月から病床確保に対する補助金の支給要件の厳格化や削減を実施。23年度予算案で看護・介護職員らの賃上げは、「ひとケタ違う」と批判が殺到した22年度と同水準にとどめています。

 自身の感染などで仕事を休んでいる看護職員は全国で9400人超(14日時点)で、人手不足は深刻です。

 逆に、高齢化などで当然増える社会保障費の伸び(自然増)を1500億円も圧縮します。圧縮分は▽医療体制の拡充に充てるルールだった薬の公定価格の引き下げ分で国費約700億円減▽75歳以上の医療費窓口負担に22年10月から導入した2割負担の通年実施に伴う国費約400億円減▽従業員を休ませ休業手当を支払った企業を支援する雇用調整助成金の特例措置の縮小で、国費約300億円減―など負担増・給付削減を充てます。

 生活保護費のうち食費や光熱費に充てる生活扶助を19年の消費水準に合わせて改定したうえで、物価高をふまえ23年10月から1人当たり月1000円だけ特例加算をします。特例加算をしても減額となる世帯は据え置きます。急速な物価高のもと、据え置き世帯の受給額は実質減となります。

 23年1月中旬に確定する公的年金額は、少子高齢化に合わせて支給水準を引き下げる「マクロ経済スライド」が発動されます。少なくとも物価高に応じた2・5%の引き上げが必要ですが、同スライドの影響で67歳以下は2・2%、68歳以上は1・9%の引き上げにとどまり、実質的に削減となります。

全費用 異常な右肩上がり

図

 岸田政権は、2023年度予算案に6兆8219億円の軍事費を計上しました。11年連続の増額で、9年連続で過去最大を更新。22年度と比べて1兆4214億円(約26%)増え、過去最大の増額幅となりました。

 政府は16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」など安保3文書で、▽5年以内に軍事費を国内総生産(GDP)比2%以上(約11兆円)に増額▽防衛省の整備計画として5年間で43兆円を確保―することを決定。23年度予算案を「防衛力抜本的強化『元年』予算」と位置付けました。

 防衛省資料は、岸田文雄首相が「防衛費の相当な増額」を誓約した日米共同声明(5月23日)の抜粋を明記。23年度の予算規模について、「当初予算のみで『防衛費の相当な増額』を確保した」としました。こうした大軍拡は米国の要求に応じるものであることを、あからさまに示しています。

 戦後最悪の大軍拡の結果、▽装備品の維持整備費2兆355億円(22年度比1・8倍)▽弾薬の取得費8283億円(同3・3倍)▽自衛隊施設の整備費5049億円(同3・3倍)▽研究開発費8968億円(同3・1倍)―と、あらゆる費目で金額が右肩上がりとなっています。

グラフ グラフ グラフ

陸海空に大量ミサイル

 顕著なのは、安保3文書で保有を明記した「敵基地攻撃」に転用できる「スタンド・オフ」兵器の拡大です。

 射程を1000キロ超に伸ばす「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発に338億円、量産に939億円を計上。地上、艦艇、航空機に配備します。地対艦ミサイル部隊は沖縄本島や宮古島、石垣島、鹿児島県の奄美大島などで配備が進んでおり、南西諸島が対中国の「ミサイル基地」となる恐れがあります。

 米国がイラクやアフガニスタンの先制攻撃で使用した長距離巡航ミサイル・トマホークの取得に2113億円を盛り込みました。国産ミサイルの開発に時間がかかるため、当面はトマホークが敵基地攻撃の主力兵器に位置付けられ、海上自衛隊イージス艦に搭載される方針です。

 海外製ミサイルとして、F35Aステルス戦闘機に搭載する「JSM」取得に347億円、F15戦闘機に搭載する「JASSM」取得に127億円を盛り込みました。F15は、JASSMなどを搭載可能にする能力向上で、18機分811億円、生産ラインの構築など「初度費」に816億円を計上しています。

 高性能ミサイルの開発も強化。音速を超える速度で地上目標を攻撃する「島しょ防衛用高速滑空弾」の開発に158億円、量産に347億円を盛り込みました。射程を伸ばす「能力向上型」の研究にも着手し、開発費として2003億円を充てます。マッハ5以上で飛行し、軌道を自在に変えられる「極超音速誘導弾」の運用に向けた研究に585億円を盛り込みました。

国土戦場化を想定

 軍事力強化の事業項目で最も金額が大きいのが「継戦能力」(戦闘を継続する能力)の強化です。各種弾薬の整備に8283億円、企業の弾薬製造ラインの拡充支援に1618億円、スタンド・オフ・ミサイルなど大型弾薬の火薬庫確保に58億円を盛り込みました。ステルス性能を高め、相手の潜水艦に探知されにくい「静粛型動力装置搭載魚雷」に86億円を計上しました。

 主要司令部の地下化を含む「抗たん性」(攻撃に耐え、基地機能を維持する能力)向上に364億円を充てます。日本の国土が戦場になることを想定したもので、民間地域が破壊されても、自衛隊だけは生き残ろうというものです。

米と軍事産業には利益

 安倍政権以来の、米国製高額兵器“爆買い”も続いています。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替となる「イージス・システム搭載艦」の建造費として2208億円を計上。同艦は、米国製のレーダー搭載のためのもので、2隻で1兆円を超える見通しです。

 F35A(8機、計1069億円)、「いずも」型護衛艦への搭載を狙うF35B(8機、計1435億円)ステルス戦闘機の調達にも巨費を投じています。

 同時に、国内軍事産業の基盤を強化するための事業として363億円を充てます。製造工程の効率化やサプライチェーン(供給網)の強化、事業承継などを支援します。

 武器輸出を推進するための基金・補助金として400億円を盛り込みました。次期戦闘機の開発に1023億円を盛り込み、日英伊で共同開発。第三国への輸出も狙います。

先端技術利用

 先端技術の軍事利用も加速しています。

 「情報戦」への対応として、軍事分野における人工知能(AI)の導入・拡大を狙っています。戦闘時に指揮官の意思決定を支援するAI技術の研究に新たに43億円を計上。また、AIによる公開情報の自動収集や分析機能の整備に22億円を盛り込みました。

 無人機(ドローン)を「革新的なゲームチェンジャー」と位置づけ、導入を狙っています。情報収集や攻撃が可能な多用途・攻撃用ドローン(69億円)、駐屯地の警戒・監視にあたるドローン(81億円)、偵察用ドローン(37億円)の運用実証を盛り込みました。

巨額ツケ回し

グラフ

 こうした大軍拡は、日本財政に深刻なひずみをもたらします。なかでも、高額兵器の購入などを複数年度に分割して支払う新たな軍事ローン「新規後年度負担」は7兆6049億円に急増。過去最大だった22年度と比べ4兆7027億円、約2・6倍に膨らみました。「既定分」を含む軍事ローン全体である「後年度負担」は10兆7174億円(約1・8倍)と、10兆円台を突破。後年度負担を返済するための「歳出化経費」の膨張をもたらします。第2次安倍政権時にも、軍事費は右肩上がりでしたが、費目をみると、自衛隊の活動費(物件費)や人件費などは大きな変動がなく、大半は軍事ローン返済分である「歳出化経費」の増加です。

 今回、10兆円規模の後年度負担がツケ回しされたことで、将来にわたって軍事費の増額を避けられないものにし、市民生活に関わる予算を圧迫することになります。


pageup