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2022年12月9日(金)

主張

大学生と生活保護

進学を認め学ぶ権利保障せよ

 厚生労働省が、生活保護を利用しながら大学などに進学することを認めない現在のルールを変えない方針を確認しました。社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会が6日了承した生活保護のあり方などについての「中間まとめ案」に盛り込みました。ルールの見直しを求める切実な声は相次いでいたのに、それにこたえない姿勢は大問題です。経済的理由で進学を断念したり、在学中に生活に困窮して退学せざるをえなくなったりする若者は少なくありません。学ぶ権利を奪うルールは早急に改める必要があります。

格差の拡大を正してこそ

 夜間学校を除き、大学、短期大学、専門学校などに通う若者が生活保護を利用できないルールは1963年の旧厚生省の通知が根拠になっています。

 認めない理由について厚労省は、一般世帯で大学に進学せずに就職する人や、自分で学費を賄っている人がいることを挙げ、「均衡を考慮する必要がある」などとしています。その立場は今回の「中間まとめ案」でも変わりません。

 しかし、一般世帯の大学などの進学率は約8割にのぼっていることを考えれば、生活保護利用世帯の子どもの進学を認めることが「均衡」を損なうというのは説得力がありません。

 現在、大学などに進学する子どもは生活保護の対象から外れる「世帯分離」を行った上で、アルバイト収入や奨学金で自分の学費や生活費などを賄わなくてはなりません。世帯としては、抜けた子どもの分の生活扶助費が減額されることになります。そうした子どもの進学率が約4割と一般世帯の半分しかないという格差こそ正されなくてはなりません。

 神奈川県横須賀市は4月、親から虐待を受けた大学生らに生活保護と同程度の金額を支給する制度を設けました。虐待から避難した学生が体調を崩しバイトもできないため、生活保護を使うか、大学を辞めるかを迫られていました。訴えを受けた市が、退学にならないように取った特例措置です。現場からは国にルール自体の変更を求める声が上がっています。

 世帯分離の認定が厳しく運用されたケースも問題になっています。熊本県では、看護専門学校に通いながら働く同居の孫の収入が増えたことを理由に、生活保護が打ち切られました。孫は入学の際、世帯分離しましたが、准看護師の資格を得て、さらに看護師資格を取るため進学しました。県は准看護師になって収入が増加したとして、世帯分離を解除し生活保護を廃止しました。この処分の取り消しを求めた訴訟で10月、熊本地裁判決は、「(収入増という)表層的な現象にのみ着目し、世帯分離が自立を促すのに効果的だったという視点がない」などと県の処分を違法としました。県の処分は国の指導のもとで行われました。大学進学などを「ぜいたく」とみなす国の姿勢が厳しく問われます。

保護費の引き上げ不可欠

 大学生の生活保護利用を認めることは親世代からの「貧困の連鎖」を断つためにも不可欠です。

 物価高騰の中で急がれる生活保護基準の引き上げなどと合わせ、国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する制度にふさわしく改革を進めることが求められます。


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