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2022年11月23日(水)

カタール発鼓動

選手の見せた二つの抗議

 ピッチの上で選手たちによる二つの“抗議”の意思が示されました。

 それはイングランドとイラン戦のことでした。一つの抗議は、キックオフのカウントダウンが始まったとき。イングランドの選手たちが、すっとピッチに片方のひざをつきました。

 差別に反対する意思を示したものです。2年前、米国での黒人にたいする暴力や差別に反対する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動が世界に広がったとき、サッカー界でもこの抗議行動が欧州など各国で行われてきました。

 イングランドのガレス・サウスゲート監督は試合前日、「片ひざをつけることについて話し合い、そうすべきだと感じている。特に若い人たちに包括的であることがとても大切だと理解してもらう上で、世界への力強い表明になると思う」と話していました。

 監督、選手たちが話し合い、自主的に反差別の意思を示したことは、その成熟した姿を示していると感じます。

 もう一つは、その前のことです。イラン国歌が流れているとき。整列したイランの選手たちはだれ一人として歌っていませんでした。そのぎゅっと閉じられた厳しい口元からも、怒りに近い思いを感じました。

 イランでは9月、22歳の女性がスカーフのかぶり方が不適切だと逮捕され亡くなりました。その理不尽なあり方に、国内でも大規模なデモが行われています。選手たちもそれに抗議の意思を表明したものです。

 両チームの選手たちは、それぞれの思いをピッチの上で表現してくれました。スポーツには対等・平等、社会正義を示すフェアな精神が中核にあります。そして選手たちはそれを社会に広げる役割を担います。

 差別や暴力にたいしてしっかりと反対の意思を示す。W杯という最高峰の舞台で、世界に誇るべきスポーツの精神をここに見る思いです。

 これと対象的だったのが、国際サッカー連盟(FIFA)の愚かな決定です。

 それは、欧州の数カ国のキャプテンにたいするもの。彼らは、同性愛を禁じているカタールの人権侵害行為などに抗議するため、虹色のハートマークに「ONE LOVE」と書かれたキャプテンマークを巻く計画を持っていました。

 しかし、FIFAは大会直前になって、このバンドをつけた選手に警告を出すとしました。そのため、計画は断念せざるを得なくなりました。反差別はFIFAも推進してきたはずにもかかわらず。

 この日、虹色のバンドをするはずだったイングランドのハリー・ケーン主将の腕にそれはありませんでした。

 スポーツのフェアな役割を見失ったFIFAにこそイエローカードを付すべきです。(和泉民郎)


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