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2022年11月6日(日)

きょうの潮流

 「年取った世阿弥(ぜあみ)は色っぽいのよ。あなたにぴったり。ぜひお演(や)んなさいな」。“瀬戸内寂聴生誕100周年記念”と銘打った嵐圭史さん主演の舞台「世阿弥」は、原作『秘花』を書いた寂聴さんの、そんな言葉から始まりました▼それから20年。圭史さんが演じる晩年の世阿弥は、心に深い闇を抱え、狂おしいほど切ない。時の将軍・足利義満の寵愛(ちょうあい)を受け、能楽師として栄華を極めますが、その息子・義教によって人生は暗転。72歳で佐渡に流されます▼しかし流罪となった後も、命のある限り、芸の高みをめざそうとする世阿弥。芸への執念は、82歳にして新作に挑む圭史さんの姿とも重なります。劇団前進座の離座から5年。「裸一貫、無一文からの再出発」は、いばらの道でした▼初舞台のはずだった自主公演「玄朴と長英」は、コロナ禍の直撃で全面中止。ようやく昨年、全国の人々の支援で上演を果たしました。前進座時代に培った人脈の賜物(たまもの)です。そして今回、人生初のSNSを活用、大学生の協力を得てクラウドファンディングも試みます▼今作で印象深いのは、世阿弥の「命には終わりあり 能には果てあるべからず」のせりふです。たとえわが身は滅びようと能の本は残る。実際、世阿弥は父・観阿弥の教えを書き留めた『風姿花伝』をはじめ、多くの書物を残しました▼寂聴さん、圭史さんの手を通して室町時代から現在に“出現”した世阿弥。伝統芸能は、このように受け継がれていくのかと感慨深い。京都、名古屋を巡演。


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