2022年10月26日(水)
主張
生活保護訴訟判決
違法な削減がまた断罪された
政府が2013年に決定した生活保護基準引き下げを違法とし、減額処分の取り消しを命じる判決が19日、横浜地裁で言い渡されました。生活保護費削減をめぐり国の違法性を認めた判決は昨年2月の大阪地裁、今年5月の熊本地裁、6月の東京地裁に続き4件目です。横浜地裁判決は、政府が削減の根拠にしたデータ算定方法などは不合理で、その数値に基づく厚生労働相の判断は誤りだとしました。恣意(しい)的なやり方で減額を強行し、生活保護利用者の生活の土台を掘り崩した責任は重大です。政府は判決を受け入れ、基準を引き下げ前の水準に戻すべきです。
恣意的な算定方法を批判
生活保護費の削減は13~15年にかけて安倍晋三政権が段階的に行いました。食料費や光熱水費などにあてる生活扶助の基準を平均6・5%引き下げました。削減総額は約670億円に上ります。過去最大規模の削減額です。
厚労省は削減について、08~11年の物価が下落したことを考慮した「デフレ調整」などだと説明します。横浜地裁の判決は、デフレ調整について▽厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会など専門家の議論を経ない手法▽低所得者の消費実態や物価動向などから見ると、行う必要性はなかった―と指摘しました。
とくにデフレ調整が、生活保護利用者の生活実態とかけ離れたものであることを強調しています。デフレ調整の際、厚労省は総務省が公表している消費者物価指数(CPI)を使わず、厚労省独自の物価指数を用いました。この指数は生活保護利用世帯の消費構造と異なり、テレビやパソコンなどの支出に占める割合が強く反映します。この間、物価の下落率が大きかったのはテレビなどです。
総務省CPIの下落率が2・35%だったのに、厚労省の指数の下落率は4・78%と大きくなりました。判決は、この物価下落を理由に減額を決めた判断は「統計等の客観的な数値等との合理的関連性に欠く」と批判しました。また相対的に物価が高かった08年を起点に下落率を算定したことも実態とあっていないと述べました。食費や光熱水費などはむしろ上がっていることも記しました。判決が、厚労相の決定は「最低限度の生活の具体化にかかわる判断の過程に過誤、欠落がある」と結論付けたのは当然です。
デフレ調整を根拠にした削減の違法性は、これまでの3件の判決でも繰り返し指摘されています。デフレ調整は13年の基準引き下げ決定で初めて使われました。12年の総選挙で自民党は生活保護給付水準の原則1割カットを公約に掲げました。「削減ありき」のためにデフレ調整という乱暴な手法を導入して強行された基準引き下げに、全く道理はありません。
戻すと同時に引き上げを
安倍政権下の生活保護費の減額は利用世帯の96%が影響を受けました。これに対し29都道府県で約1000人が、憲法25条が保障する生存権を守れと裁判を起こしました。相次ぐ原告勝訴の判決は、原告らの粘り強い運動によるものです。保護費減額はいまの物価高騰の中で利用者の生活をいっそう苦しめています。国は控訴を断念し、削減分を元に戻すとともに、支給額の引き上げに踏み切ることが求められます。