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2022年9月30日(金)

主張

大学設置基準改定

教育研究の劣化は許されない

 文部科学省は、大学が備えるべき組織、施設などの最低水準を定めた大学設置基準(省令)を改定し、10月1日から施行しようとしています。今回の改定は、大学の教育研究の劣化を招きかねない重大な問題をはらんでいます。

「大学の自治」に制約

 改定では、「教員組織」「事務組織」の規定を無くし、教員と事務職員などからなる「教育研究実施組織」に置き換えるとしています。これは教員組織による大学の自治に制約をもたらします。

 大学の自治は、憲法23条の「学問の自由」に不可欠なもので、大学が権力の支配に屈することなく、教育研究を通じて平和と人類の福祉の向上に貢献するための制度的保障です。教育研究に責任を負えるのは、学術的専門性をもつ教員組織だけです。教員組織を無くし、その責任を曖昧にする改定は、「学問の自由」を制度的に保障するものとは到底言えません。

 改定で、大学が備えなければならない教員数として算定される「専任教員」を「基幹教員」に変えるとしていることは、専任の教員数が大幅に減らされることになりかねません。

 専任教員とは、専ら一つの大学で教育研究に従事する教員です。基幹教員も定数の4分の3は現行通り一つの大学でのみ従事しますが、残り4分の1は他の学部や大学、企業とかけもちができ、8単位以上の授業を担当している非常勤講師も算定できます。非常勤、任期付き雇用の教員を増やし、身分を不安定にすることは、教育研究の質の低下につながります。

 改定では、「原則」備えなければならないとされている運動場と体育館は「必要に応じて」となり、校舎に備えるべき施設として明示されていた会議室、学生自習室、学生控室も削除されています。

 これらが無くなれば、サークルなど学生の自主的活動が困難になります。学生の人間形成を図る機会を奪う大改悪です。

 一定の要件のもとで文科相が認定した大学には、卒業に必要な124単位のうち60単位はオンライン授業にできるという上限や敷地面積の基準が適用されない「特例制度」を新設します。これにより既存の大学が校舎を無くし、授業をオンラインだけに切り替えることが可能となります。

 設置基準改定の背景には、経団連がめざす社会「ソサエティ5・0」を支える人材養成のための産学連携があります。経団連は、カリキュラム改革が頻繁にできる認可の簡略化やリカレント(学び直し)教育の普及のための校舎の規制緩和などを求めています。大学教育の目的を学位取得に矮小(わいしょう)化し、就職予備校化するものです。「教育と研究を一体で行う」という大学にしかない特性を失わせます。経済界を含め社会が求めている「問題発見力」「的確な予測」「革新性」を身につけた学生を育成することは不可能になります。

大学関係者から懸念噴出

 改定案に対する意見募集では大学関係者から数百件に及ぶ意見が寄せられました。公表からわずか3カ月で施行に踏み切るのはあまりにも拙速です。国公私立の三つの全国的な大学教職員組合が共同で「重大な混乱をもたらす」として施行の見送りを要請しています。文科省はこうした声を受け止めて、改定を撤回するべきです。


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