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2022年8月29日(月)

自衛隊内での性暴力被害を実名で告発 元陸上自衛官 五ノ井里奈さん

誠実な謝罪を求めたが事実を消された 女性隊員が安全に働ける環境にしたい

東日本大震災で被災。避難中に出会った女性自衛官が憧れの存在に――

 夢と憧れを抱いて入隊した自衛隊で受けたおぞましい性暴力被害。“なかったこと”にしようとする防衛省・自衛隊に対し実名で告発し、第三者委員会による徹底調査を訴えている五ノ井里奈さん(22)。被害の実相と、実名での告発を決意した思いを聞きました。(聞き手・石橋さくら、写真・佐藤研二)


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ごのい・りな 1999年、宮城県東松島市生まれ。2020年、陸上自衛隊入隊、1等陸士。22年、退職。自衛隊内で受けた性暴力被害を実名で告発。現在、子どもたちに柔道を教えながら、自衛隊・防衛省に被害の徹底調査を求め活動。

 2011年3月11日、小学生だった私は宮城県東松島市で東日本大震災に遭いました。つらい避難生活を送る中、女性自衛官がお風呂をつくってくれ、腕相撲で遊んでくれました。「オリンピック選手を目指している」と伝えると応援してくれた彼女は私の憧れの存在になり、自衛官を目指すきっかけとなりました。11年たった今も連絡をとり感謝の気持ちを伝えています。山口県の大学に進学しましたが、中退し、自衛隊体育学校の柔道部に入りオリンピックに出る夢を追いかけることにしました。

被害は日常的

 20年4月に入隊し、福島県の郡山駐屯地に配属されました。隊員58人中、女性は育休中1人を除き4人でした。女性の先輩隊員からは「あそこの中隊はセクハラ、パワハラがひどいから気をつけて」と警告されました。20年秋ごろ、男性隊員から柔道しようと技をかけられ後ろから腰をふられました。廊下で急に抱きつかれることも日常的で、女性隊員同士で報告しあっていましたが圧倒的少数であり、みな自分の身を守ることで精いっぱいでした。

 21年6月24日、山の訓練で張った天幕(2~3人用のテント)で新人の役割として夕食をつくっていました。そこで始まった酒盛りに男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて多いときは5、6人がぎゅうぎゅう詰めに座っていました。その輪の中に入れられ胸をもまれ、キスされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられました。

 他の天幕にいる女性隊員にラインで助けを求めましたが、結局来ませんでした。この隊員は事件直後に退職しました。「止めに入ったら自身に来ると思い怖くて助けに行けなかった」と証言し、この隊員も日常的に抱きつかれるなどの被害にあっていました。事件後、誰かが中隊長に報告し、その密告の犯人探しが始まり、私が疑われましたが、問題が大きくなり居づらくなることを避けるため「何もありません」と報告しました。

 同年8月3日、再び山中での訓練が始まった夜のことです。部屋で食事の準備をしていた際、「料理はいいから接待しろ」と言われ、酒を飲んでいる男性隊員十数人の輪の中に座らせられました。そこで1曹Eは格闘技の話をし始めたところで、3曹Sに「五ノ井に首をきめて倒してみろ」と命令しました。Sは私の首に両手をあてベッドに押し倒し、股を無理やりこじ開け腰を振り陰部を押し当ててきました。Eらはそれを見て笑っていました。さらに隊員Kにも同様のことをされ、3人目のRは押し倒し、私の両手首を押さえつけ何度も腰を振ってきました。全力で抵抗しましたが、男性の力にはかないません。いったん終わりましたが1曹Eは再び格闘技の話を持ち出し、Sは再び私を押し倒し腰を振ってきました。そして私のひきつった顔を見て口止めをしてきました。

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(写真)現役自衛官時代の五ノ井さん(本人提供)

調査に不信感

 もう限界だ―。2日後、訓練から抜けたいと女性幹部に相談すると味方をしてくれました。しかし、翌日の話し合いで男性中隊長が「訓練は訓練だから」と私をつきはなすと、女性幹部は「そうだよ、訓練は訓練だから」と急に態度を変えたのです。信じられませんでした。ここに私の味方はいないのだとわかり、母親が倒れたことにし、実家に帰りました。

 その後、適応障害の診断を受け休職することになりました。私は繰り返し性被害を受ける中で、この問題をなんとかしなければならないと考えてきました。自分が死ねば自衛隊に事の重大さを認識させられるのか。被害に繰り返し遭ううちに自分の体が汚くなっていく感覚がありました。大好きな柔道でオリンピックに出る、その夢もなくなりました。

 誠実な謝罪がほしい。その思いで人事課にあたる「1課」に被害を報告しましたが「セクハラを見たという証言が得られなかった」と回答してきました。次に自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛省の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出しましたが、「取り調べに該当する隊員の訓練が9月に始まるので、それが終わってからだ」と言われました。その間に記憶が薄れてしまう。取り調べを優先しないことに疑問がわきました。

 そして、検察庁の捜査の結果、今年の5月31日に不起訴処分となりました。「複数の該当自衛官を取り調べたところ、首ひねりという技で倒したと認め、それを目撃した人もいたが、腰をふるようなわいせつ行為は行っておらず、目撃もしていないとの供述だった」との信じがたい説明でした。納得いくわけがなく6月7日に検察審査会に不服申し立てをしました。

 事実を事実ではないとされたことが一番許せませんでした。あいまいに終わらせようとしている。このままにしてはいけない―。徹底的な調査と加害者へのしかるべき処分。そして悪いことをしたことへの誠実な謝罪がほしい。事件後の話し合いで態度を変えた女性幹部が「あのあと私もセクハラに遭ったことで、初めて五ノ井の気持ちがわかった。あの時は申し訳なく思っている」と話したことを人を通じて聞きました。しかしそもそも、上に立つ人間がこのような認識でよいのでしょうか。隊員一人ひとりにセクハラやパワハラについて徹底的に教育するシステムを設ける。そんな自衛隊に変わってほしいとの思いで6月27日、自衛隊を退職。実名で問題を社会に知らせることを決意しました。

多くの連帯が

 YouTubeで性暴力被害を告発し、その後、第三者委員会による調査を防衛省に求めるオンライン署名(Change・org経由)を開始。今月10日時点で6万7903人分集まり、多くの人が連帯の気持ちを寄せてくれました。

 また、署名と同時に呼びかけた職場のハラスメントに関するアンケートに120件の回答が寄せられ、自衛隊内でのセクハラ・パワハラで99件の回答がありました。私以外の多くの被害の実態が明らかになると同時に、相談してもハラスメントと認められず、あいまいにされているケースが多いこともわかりました。防衛省の相談窓口であるセクハラホットラインが機能していないことを示しています。

 縦社会である自衛隊では自分の身近な上司にまず相談します。しかしその時点で「考えすぎだ」「大ごとにしないほうがいい」などと流されてしまう。被害を受けても報復や、うわさを流され居づらくなる状況を恐れ、報告しない、これが実態です。声を上げるには相当な覚悟がいるのです。

 8月末に、防衛省に署名を提出する予定です。共産党や立憲民主党の議員とともに引き続き第三者委員会での客観的調査を求めていきます。隊員が声を上げやすく、そして女性隊員が安全に働ける環境につなげたい―。そのためにできることをやっていきたいです。

五ノ井さん被害と告発の経過

2020年

4月   自衛隊入隊
秋ごろ  セクハラ被害

2021年

6月24日 山での訓練、テントで性被害
8月3日 山での訓練、宿舎で性被害
  6日 女性幹部自衛官、中隊長と話し合い
  11日 帰宅
9月3日 1課 取り調べ
  18日 警務隊に強制わいせつ事件として被害届提出

2022年

5月31日 検察庁、不起訴処分
6月7日 検察審査会に不服申し立て
  27日 自衛隊退職
7月21日 署名スタート
8月末  署名を防衛省に提出予定


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