2022年8月13日(土)
大軍拡の正体
極超音速ミサイル開発
JAXAを組み込む
軍民両用 衣の下に鎧
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が7月、観測ロケットを打ち上げ、「スクラムジェットエンジン」に関する燃焼飛行試験を実施しました。極超音速ミサイルの開発をめざす防衛省防衛装備庁から18億円超の契約額で委託された研究業務の一環です。宇宙探査や地球観測衛星など民生分野で世界的な活躍をしてきたJAXAが、兵器開発にどこまで組み込まれていくのか―。(中村秀生)
|
「所望のデータの取得ができ、満足のいく成果があがった」
岸信夫防衛相(当時)は、飛行試験の2日後の記者会見でこう称賛しました。「今後、防衛省が進める極超音速誘導弾の研究開発において、スクラムジェットエンジンの性能等、評価・検討するにあたり、こうした成果を活用できるものと期待している」
開発をめざす極超音速ミサイルは、敵に迎撃されにくい高度を軌道変更しながら極超音速(マッハ5以上)で飛翔(ひしょう)できる巡航ミサイル。装備庁は「相手方の脅威圏外から対処するスタンド・オフ能力を飛躍的に向上させ、戦闘様相を一変するゲーム・チェンジャー」と位置づけます。まさに憲法違反の“敵基地攻撃兵器”です。
培った技術
その実現に不可欠な重要技術が、極超音速で飛翔しながら空気を取り込むスクラムジェットエンジン。超音速の気流に含まれる酸素を使って燃料を安定的に燃焼させることが技術的な課題です。
そこで装備庁が目をつけたのが、JAXAが培ってきた技術や試験設備です。JAXAは、将来の宇宙往還機などのため、スクラムジェットエンジンの研究を進めていました。装備庁は、そんなJAXAとの協力体制を最大限活用し、低コストで早期に極超音速ミサイル開発を図ります。
今回のJAXAの飛行試験は「安全保障技術研究推進制度」の一環。将来の防衛装備品開発に役立ちそうなテーマで、装備庁が大学・研究機関などに研究を委託する制度です。
装備庁は2017年の公募テーマの一つとして「極超音速領域におけるエンジン燃焼特性や気流特性の把握に関する基礎研究」を設定。JAXAが応募し採択されました。分担研究機関は東海大学と岡山大学です。装備庁によると、総経費は約18億4853万円で契約。期間は昨年度までの5年間の予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で1年間延長しました。
「平和」削除
日本の宇宙開発はもともと、国会決議で非軍事分野に限定されていました。しかし08年に成立した宇宙基本法は、宇宙開発利用を「我が国の安全保障に資するよう行われなければならない」と百八十度転換。12年にはJAXA法が改悪され、業務を「平和の目的に限り」行うと定めた規定が削除されました。
井原聰・東北大学名誉教授(科学技術史)は、現在のJAXAにとって「安全保障が重要な任務に切り替わった」と指摘。安全保障技術研究推進制度について「装備庁は『軍民両用ではあるが、基礎研究だ』と言い張ってきたが、衣の下の鎧(よろい)がもう見えた」と話します。
「極超音速ミサイル開発は目下、米国、中国、ロシアがしのぎを削っている。米軍と一体の自衛隊はこの分野でも貢献したいと、大軍拡路線でJAXAを活用すると思われる」と井原さん。貧困な科学・技術政策と、経済安全保障法に関連する「特定重要技術」への巨費投入で、大学・研究機関の軍事研究への誘導がいっそう進むことを心配しています。