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2022年8月12日(金)

主張

山の日

誰もが自然に親しめるために

 11日は山の恵みに感謝することを趣旨として制定された「山の日」でした。コロナ禍のもとでの夏山シーズンが3年目となり、登山に欠かせない山小屋の経営危機をどう打開するかが切実な課題となっています。

深刻化する山小屋の経営

 山小屋は宿泊や休憩場所の提供以外に、人命や環境保全にかかわる公益性の高い役割を担っています。環境省が作成した資料「『国立公園』とは?」には「登山者に対する情報提供・安全指導」「給水」「公衆トイレの提供」「医療」「救難対策」「登山道の管理・清掃」が挙げられています。

 しかし公的な支援は微々たるものです。登山道の日常的な補修一つとっても、資材については地元自治体が提供したり、補助が出たりしますが、人件費はほとんどの場合、自前です。

 山小屋はインフラのない山中で電気や水道、資材の運搬手段を自力で確保する必要があり、もともと収益性の高い事業ではありません。

 近年、ヘリコプターによる物資輸送が難しくなっています。ほとんどの山小屋が食料、燃料をはじめとする資材を民間空輸会社のヘリで運んでいます。機体、パイロットの不足、輸送費の高騰などから空輸会社との契約を続けられなくなる事態が起きています。営業の継続が危ぶまれることになる問題です。

 多くの山小屋で建物が老朽化していますが、国立公園内での改築には複雑な法規制があります。

 コロナ禍は、こうした以前からの厳しい経営を一気に深刻化させました。感染対策として仕切りの設置や換気の改善、寝具・食器の工夫などをしたうえで、多くの小屋が完全予約制にして宿泊定員を減らしました。夏山シーズンに大勢の登山者を泊めて利益をあげるやり方を続けるのは困難です。

 関係者からは、もはや山小屋の自助努力で解決できる問題ではないとの声すら聞かれます。

 山小屋が廃業したり、山の環境を整備する体制がなくなったりすれば、登山道が荒れ、道迷いや滑落などの遭難が増える恐れがあります。国民の財産である自然公園の荒廃にも直結します。環境と登山の安全を守っている山小屋を支えることが重要です。

 山小屋の危機に対して有志がクラウドファンディングなどで支援する貴重な活動が広がりました。支援金を出した自治体もあります。ただ自然環境を守る拠点として山小屋を将来も維持するためには、現場の努力に頼っている自然公園の維持・管理体制を見直す必要があります。

国は現場の声に耳傾けよ

 国立公園や、それに準ずる国定公園などの自然公園は、保護と利用を通じて国民の保健と生物多様性の確保に貢献すると自然公園法で定められています。国が責任を持つのは当然です。

 国立公園に関する行政が環境省、林野庁、文化庁、国土交通省などに縦割りで細分化され、統括する体制が極めて弱いことも指摘されています。

 日本の自然環境を将来にわたって守るために、国は、山小屋をはじめ自然公園を支える人たちの要求に耳を傾け、必要な予算措置や人材の配置を惜しむべきではありません。


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