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2022年7月22日(金)

異論噴出 それでも強行か

安倍元首相の「国葬」きょうにも閣議決定

疑問・問題だらけ

 政府は安倍晋三元首相の「国葬」を22日にも閣議決定する見通しです。しかし、なぜ国葬なのか、国民の疑問・疑念は深まるばかりです。NHKの世論調査(16~18日実施)では、安倍氏の国葬実施について「評価しない」が38%に上りました。熊本日日新聞(電子版)の調査(15~19日、SNS登録者に実施)では、国葬に「賛成」「どちらかといえば賛成」が合わせて42%であるのに対して、「反対」「どちらかといえば反対」が49%と、反対が賛成を上回りました。国民のなかに、これだけの異論、疑問、疑念があるのにそれでも強行しようというのでしょうか―。(中野侃)


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(写真)市民のアピール行動で「国民主権のもと国家の英雄のように称(たた)えてはいけないましてや安倍氏国葬には反対!」のボードを掲げて参加した三重革新懇代表世話人の大野章さん=17日、三重県四日市

 安倍氏の国葬をめぐる最大の問題は、実施の理由が“安倍政治の賛美・礼賛”にあることです。

評価は真っ二つ

 岸田文雄首相は14日の記者会見で、国葬をする理由について、「卓越したリーダーシップと実行力」「東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績をさまざまな分野で残された」として、安倍氏を絶賛しました。

 一方で安倍政権の下では、憲法9条の改定が掲げられ、歴代政府の憲法解釈を覆す集団的自衛権の行使容認や安保法制の強行など「戦争する国」づくりが進められてきました。「アベノミクス」によって格差と貧困が拡大し、異次元の金融緩和による異常円安が現在の物価高騰を引き起こしています。「森友」「加計」「桜を見る会」などの疑惑も噴出し、国政私物化を繰り返してきました。

 安倍氏の政治的立場や政治姿勢への評価が国民のなかでも大きく分かれていることは明らかです。一面的な評価のみを強調し、礼賛一色の形で国葬を実施すれば、国家として安倍政治を全面的に公認し、賛美・礼賛することになります。こうした形での実施は到底認められません。

 また国葬は、安倍氏に対する弔意を個々の国民に事実上強制することにつながる懸念があります。弔意を示すかどうかは、個人の自由であり、それを強制することは内心の自由に関わる問題です。憲法学者からも憲法19条の内心の自由を侵害するとの批判がだされています。

 吉田茂元首相の国葬(1967年)では、政府から官公庁や公立学校に黙とうするよう指示が出され、イベントの自粛も要請されました。中曽根康弘元首相の合同葬(2020年)では、文部科学省が全国の国立大などに弔旗や黙とうで弔意を表明するよう通知を出しました。こうした事態を再び招くようなことがあってはなりません。

法的根拠示さず

 戦後、国葬が行われたのは吉田氏の葬儀だけです。戦前は、国葬の対象者を皇族などに規定した国葬令がありましたが、日本国憲法が施行された1947年に廃止。首相経験者などの葬儀は80年以降、内閣と自民党の「合同葬」が慣例となってきました。

 国葬に関する基準は法令上規定がありませんが、岸田首相は、内閣府設置法において、「国の儀式」として閣議決定することで実施可能だとして、国会審議もないままに強行しようとしています。明確な法的根拠も示さずに、政府の判断だけで決定することには、恣意(しい)的な政治利用の危険性も指摘されています。国民のなかでも賛否が大きく分かれる問題であり、その費用を全額国費で負担することからも、国会での十分な審議と説明が求められます。

透ける政治意図

 安倍政治の内政・外交の問題は過去の問題ではなく、その基本点の継承を公言する岸田政権の問題であり、まさに現在の焦点・課題です。そのため、岸田首相が国葬を決定した背景には、安倍氏の国葬をテコにして、政権評価の浮揚を狙う、政治的意図が感じられます。党内保守派への配慮との指摘もあり、改憲や大軍拡を推進する足場固めの思惑も透けてみえます。

 安倍氏が8年8カ月の在任中に果たした役割については、事実と道理に基づいた、冷静な評価が行われるべきです。その上で、国葬を強行するのではなく、「国葬でいいのか」「国葬には反対だ」という国民の声に耳を傾けることが求められます。

 岸田首相は、国葬を行う理由の一つに、「民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」ことをあげましたが、その強行は日本の民主主義を破壊することにしかなりません。


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