2022年7月21日(木)
きょうの潮流
どれだけ実績を重ねても、すばらしい演技をしても、口ぐせのように言い続けてきました。「現状に満足したことはありません」。その飽くなき向上心こそが競技者としての強さでした▼フィギュアスケートの羽生結弦(はにゅう・ゆづる)選手が競技から退き、プロに転向すると表明しました。これからも夢や理想を追い求めていきたい、挑戦してきた4回転半ジャンプも成功させたいと、いつものように意欲を燃やしながら▼彼の演技を初めて見たのは2008年の全日本選手権でした。当時ジュニアの14歳。細身の体は柔らかく、音楽にのった滑らかな滑りはすでに豊かな表現力を備えていました。見るものの心に訴えかけるように▼シニア2年目で早くもトップスケーターに駆け上がり、長く第一線を走り続けました。4回転ジャンプをはじめ、つねに新たな境地を切り開いてきた彼の背を世界中の選手が追いかけました。北京五輪で銀メダルをとった鍵山優真選手も「自分もいつかこういう選手になりたい」と思ってきたと▼数々の偉業の裏には、いくつもの試練が隠れていました。東日本大震災では仙台の地元リンクが被災し、避難所くらしも経験。練習で何度も転び痛めた足首のけがは最後までつきまとい、ぜんそくの持病もありました▼応援してくれる人たちの思いが支えとなり、スケートをしていること自体が生きる証しという羽生選手。フィギュアスケートの歴史を前に進めてきた「羽生結弦」が、新しいリンクで何を描くのか。楽しみにしています。








