2022年7月19日(火)
スペイン副首相 「市民主役」の政治団体設立
“あらゆる階層の声を政治に”
半年かけ全国聞き取りツアー開始
【ベルリン=桑野白馬】総選挙を2023年に控えたスペインで、ディアス副首相兼労働相が、幅広い市民で構成する新たな政治団体「スマール(スペイン語で“加える”の意)」を創設しました。より公正な社会の実現を目標に、あらゆる階層の国民の願いを聞いて将来の政策に生かそうとするもの。左派・中道左派の支持者だけでなく、社会正義の実現を目指す、さまざまな人や団体の結集を目指します。
マドリードで8日に行われた旗揚げ集会には約5000人が集結。女性や移民の権利擁護団体をはじめ、公共医療・教育や環境保護、労働組合の各種団体のほか、家事労働者や年金生活者など、さまざまな立場の人たちが参加しました。
主役はあなた
「主役は政党の代表者ではなく、あなたたち一人ひとりだ。人権を基礎に据え、それぞれの違いを強みに、より良い国づくりのために共に歩もう」とディアス氏は呼び掛けました。スマールを土台に市民の声を聞くことに加え「政党間の対立」を乗り越える狙いもあります。
ディアス氏は今後、半年かけて全国を訪れ、国民の要求の「聞き取りツアー」を実施する方針で、15日にマドリードで開始しました。環境・農業団体に所属する若者34人から意見を聞き取りました。
スペインでは11年5月、国民に負担を押し付ける緊縮政策に怒った数十万人の群衆が主要都市の広場を占拠。この運動で中心を担った市民が新興政党ポデモスを結成しました。スペイン共産党を中核とする統一左翼と連携した「ウニダス・ポデモス」は国政選挙で躍進。20年1月、中道左派の社会労働党との連立政権が発足しています。
現政権は数多くの「社会的前進」(サンチェス首相)を勝ち取ってきました。なかでも、スペイン共産党に所属するディアス氏は、使用者側と労組側との3者間対話を軸に、最低賃金引上げやアプリを介して働く食事配達員の労働条件改善を実現してきました。
「怒りでなく」
ただ、ロシアのウクライナ侵略をめぐる対応では、政権内に大きな溝があります。サンチェス氏は、国防費をほぼ倍増させ、国内総生産(GDP)比2%の達成を目指す構え。ウクライナへの武器支援も実施しました。これに対し、ウニダス・ポデモス側は「戦争する党の政策」と厳しく批判。「緊張の急激な高まり」(ペリオディコ・デ・エスパーニャ紙)が見られます。
さらに、急激な物価高騰への対策が遅れたことで国民の不満が噴出。6月19日に行われた南部アンダルシア自治州議会選挙では左派が大敗し、右派・国民党が過半数を獲得。連立政権の危機を指摘する報道が相次ぎました。
ディアス氏は、連立政権の「進歩的な協力はこれまで以上に不可欠」としつつ「怒りでなく、希望を集めた新たな運動団体」の実現を目指すとしています。世論調査で、ディアス氏は国内で最も評価の高い政治家に選出されており、次期首相就任をのぞむ声も出ています。サンチェス氏や他の左派政党からは将来的な連携を示唆する言葉が寄せられており、「聞き取りツアー」後の左派勢力の動向が総選挙の焦点となりそうです。








