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2022年6月3日(金)

主張

刑法の侮辱罪

厳罰化阻み言論の自由守ろう

 悪質な誹謗(ひぼう)中傷対策として侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改定案が衆院を通過し、参院法務委員会で審議中です。法定刑に懲役・禁錮が追加されることにより、侮辱罪で現行犯逮捕が可能となります。具体的にどんな表現が「侮辱」にあたり、処罰対象になるのかは審議を通じても、一部の判例を示すのみで不明確なままです。「戦争する国」づくりを進める岸田文雄政権のもとで警察などが政治的弾圧の思惑から恣意(しい)的に判断することで言論を萎縮させ、表現の自由を侵害する恐れがあります。

政治弾圧に使われる危険

 刑法上の名誉に対する罪には、名誉毀損(きそん)罪と侮辱罪があります。名誉毀損罪は、「賄賂を受け取った」など、公然と具体的な「事実」内容を示し、名誉を傷つけた場合、その「事実」の真偽にかかわらず成立します。そのうえで、憲法21条による正当な言論を保障するため、政治家に関する事実で、真実が証明できる場合などには違法性が否定されます。

 一方、「うそつき」など、具体的「事実」内容を示さない場合に成立する侮辱罪は、違法性を否定する規定の対象とはなりません。侮辱の文言の解釈も明確とは言えず、政治的な批判が侮辱と扱われる危険は払しょくされません。

 侮辱罪は、1875年に政府批判を封じるためにつくられた讒謗律(ざんぼうりつ)に由来します。同年布告された新聞紙条例とともに、自由民権運動の弾圧に用いられました。

 国会審議では、この歴史を踏まえ、政治弾圧に使われるのではないかとの懸念が相次ぎました。二之湯智国家公安委員長は「不当な弾圧はない」と答弁しました。一方で、2019年の参院選の際、街頭演説する安倍晋三首相(当時)に対し、「安倍やめろ」「増税反対」などと声を上げた市民2人を北海道警が排除した事件は「正しかった」と答弁しました。

 同事件について札幌地裁は、「公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な権利として尊重されなければならない」とし、政権への異論を排除した警察の対応を違憲・違法と判示しました。民主主義の根幹である政治的表現を排除したことを、「正しい」とする政権が「不当な弾圧はしない」と言っても説得力はありません。

 国連自由権規約委員会の「一般的意見」は、意見を持つ自由および表現の自由は個人の完全な発展に欠かせないとした上で、締約国に対して、名誉毀損を犯罪の対象から外す検討を求めています。

 刑法の適用が認められるのは最も重大な事件に限られなければならず、拘禁刑は決して適切な刑罰ではないとも指摘します。欧米諸国では、名誉に対する罪の廃止、あるいは法定刑から拘禁刑を削除する法改正が行われています。

 今回の刑法の改定は、現行の法定刑(拘留または科料)に、1年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)等を追加します。国際的な動向に逆行しています。

参院で徹底審議し廃案に

 侮辱罪については成立後20日で施行となるので、成立を許せば次の参院選で政治的言論への弾圧が可能となります。不起訴になったとしても、現行犯逮捕のインパクトは、言論・表現に対する脅威となり、萎縮を招くことは明らかです。刑法改定案は、参院で徹底的に審議し、廃案にすべきです。


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