2022年6月2日(木)
志位和夫著『科学的社会主義Q&A 学生オンラインゼミで語る』
マルクス、エンゲルスの理論的な魅力、新鮮に
長久理嗣
![]() (写真)『科学的社会主義Q&A』日本民主青年同盟中央委員会発行・定価400円 |
“科学的社会主義への新しい入門書の誕生”だと思います。志位和夫委員長自身の科学的社会主義との出会いとなった、エンゲルス論文「猿が人間になるについての労働の役割」の紹介に始まり、科学的社会主義を今学ぶ意義、科学的社会主義の「科学」とは「事実から出発して法則を見いだす」ことであること、「科学」となった「二つの発見」(史的唯物論と剰余価値理論)の説明など、科学的社会主義の原理的な諸側面が系統的に語られています。私自身が理論的意義を感じた点をいくつか述べます。
弁証法――「社会は変わる」ことへの確信
いちばん力をこめて解明されているのは、弁証法です。
第1に、質問3で「弁証法とは何ですか?」という直球の問いへの答えとして、古代ギリシャの「問答・対話の方法」に始まり、ヘーゲルが弁証法を復活させた意義が述べられます。そして、「弁証法にはいろいろな論じ方があるが」としつつ、『空想から科学へ』で明らかにされた弁証法の見方の三つの特徴が、現代政治の問題でリアルに詳しく説明され、読者を一気に弁証法の世界に誘います。
第2に、質問4「理系の勉強の中で、科学的社会主義が役に立つことはありますか?」に答えて、自然の弁証法が語られます。ミクロの方もマクロの方も「果てがない」弁証法的な世界観(坂田昌一氏の「物質の階層性」)。益川敏英氏の、“方法論が先にあるのではなく、具体的な研究があって、方法論で確かめながら進んだ”という言葉を紹介しての解説は、唯物論的な弁証法の真髄を語ったものです。“まず方法ありき”のデューリングの誤りを批判し、『資本論』の「否定の否定」の見方を説明した、エンゲルスの言葉が思い出されます。
第3に、質問5への回答で、『資本論』の「導きの糸」とされたのも弁証法であると紹介されます。資本主義を「肯定的理解」と「必然的没落の理解」の両面でとらえた。ここに「『資本論』の一番のすごさがある」と語られています。
第4に、当日の質問2に答えて、「弁証法の妙味」として、「あらゆる必然的な出来事は、偶然的な出来事の積み重ねでつくられる」という「偶然性と必然性の統一」が語られます。加えて、さらに弁証法を勉強していく方向も助言されています。
これらの解明の学習は、複雑に激動的に推移する世界と日本を科学的にとらえ、“社会は変わる、変えうる”ことに確信が持てる見方として、今、最も求められています。本書は、昨年11月の第4回中央委員会総会で議論された「政治対決の弁証法」、そして「弁証法」そのものを、世界観、経済学、政治論・革命論の各分野にわたってつかみ、深めることができるテキストとなっています。
「どんな覇権主義も許さない」立場を継承
質問8「ロシアの侵略について科学的社会主義の立場からどういう分析ができますか?」――今、誰もが聞きたい設問ではないでしょうか。これに答えて、ウクライナ侵略の最大の要因はロシアの歴史に根深く流れている覇権主義にあると指摘され、三つの解明がされています。
第1は、マルクス、エンゲルスが生涯、ロシア帝国、イギリス植民地主義という「二つの覇権主義」とたたかったことです。18世紀以来の歴史を分析したエンゲルス論文「ロシア・ツァーリズムの対外政策」、マルクスも「ヨーロッパにおける覇権」の言葉でロシア帝国を批判したことが紹介されています。
第2は、レーニンはこのロシア帝国の覇権主義に正面からメスを入れたが、スターリンによるロシア帝国時代の覇権主義の乱暴な復活という逆行が起き、後継者たちに引き継がれたこと、今回のウクライナ侵略はこの「歴史的系譜」の上にあり、だからプーチン大統領は「欧州に覇権をふるったロシア帝国の末裔(まつえい)」と言えます。
第3は、日本共産党は半世紀にわたってこの覇権主義とたたかい、現綱領に「どんな国であれ覇権主義的な干渉、戦争、抑圧、支配を許さず、平和の国際秩序を築く」と書き込んでいます。これは「ロシアの覇権主義であれ、イギリスの植民地主義であれ、覇権主義を許さない」マルクス、エンゲルスの立場を現代に継承したものだと強調しています。
科学的社会主義の「Q&A」として、覇権主義の問題が論じられました。それは、この学説が生きた学説であり、情勢、任務の変化とともにその理論の異なった側面が押し出されてくるものだと、実感させます。
『資本論』のすごさ、「脱成長社会」論をどう考える?
『資本論』の「すごいことだらけ」も豊かに明らかにされています。資本主義社会を人類社会の自然で最後の形態だと絶対化しないで、その法則を明らかにしたこと、資本主義だけでなく人類の歴史全体を研究した著作であり、未来社会――社会主義・共産主義社会とは何か、その魅力、素晴らしさを縦横に論じていると述べられています。
当日寄せられた質問、「社会主義は『脱成長社会』なのですか?」に答えた見解も注目されます。志位さんの『新・綱領教室』では、『資本論』で社会の健全な発展を展望していることが論じられましたが、それと重なる解明になっていると思います。
一つ目。『資本論』で述べられているのは、資本主義のもとでつくられる高度な生産力は社会主義の現実的土台、物質的条件をつくりだすということです。マルクスの理論が「脱成長」=成長を求めない理論だという主張は「事実とも違うし、同意でき」ません。日本共産党は、社会主義の展望として、資本主義的な浪費経済をなくし自然環境と調和した発展、より人間的な質での発展を展望しています。
二つ目。党の経済社会観、政策論として、「気候危機打開の2030戦略」を例にあげ、「低エネルギー社会になっても成長はできる」ことが説かれています。“環境と両立する経済のあり方は「脱成長」になる”という主張は、「エネルギー転換研究グループ」の詳細な試算とも異なり、「根拠をもたないもの」です。仮に「成長しない社会」ということを展望すると、「社会保障の財源をどうやって見いだすのか一つとっても、見えてこなくなる」と指摘されています。
自由と民主主義――「それでも心配だ」という方へ
質問6「旧ソ連や中国に自由がないのは、もともとの理論に問題があるのではないですか?」に答えて、マルクス、エンゲルスが独裁や専制に反対し自由と民主主義の論陣を張り続けたと論じられます。「旧ソ連や中国は、どうして自由のない社会になったか」の歴史的解明。自由と民主主義について“日本共産党は公約しているが、それでも心配だ”という方には、高度に発達した資本主義国、日本では「党の公約」にとどまらず「歴史の必然だと言える」から「ご安心ください」と説かれています。
質問7「資本主義のなかに社会主義・共産主義のヒントのようなものはありますか?」に答えて、「ヒントはある」と、2020年の綱領一部改定を踏まえ「資本主義の発展がつくりだす五つの要素」が語られています。
著者は、「私たちも、マルクス、エンゲルスがとりくんだ同じ姿勢で、新しい問題に挑戦して、絶えず理論を発展させていきたい」と語っています。本書を、21世紀の今日、新しい問題意識を学び、共有し、対話していける書として活用したいと思います。(ながひさ・みちつぐ 党学習・教育局次長)









