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2022年5月31日(火)

主張

生活保護訴訟判決

違法な削減強行した政府断罪

 政府が2013年に決定した生活保護費の基準額引き下げについて熊本地裁は25日、違法の判決を言い渡しました。当時の厚生労働相が判断する過程や手続きに誤りがあったなどとし、引き下げ処分の取り消しを命じました。基準額引き下げをめぐる訴訟で、政府の処分を違法とした判決は21年2月の大阪地裁に続き2件目です。生活保護費の減額によって、多くの利用者は苦境に立たされました。健康で文化的な最低限度の生活を国民に保障する憲法25条に基づく生活保護制度の土台を掘り崩した政府の責任は重大です。引き下げ前の水準に直ちに戻すべきです。

専門的知見と整合性欠く

 生活保護費の基準額引き下げは13~15年にかけて安倍晋三政権が段階的に強行しました。生活保護費のうち食費や光熱水費にあてる生活扶助の基準額を平均6・5%、世帯や地域によっては最大10%引き下げました。過去最大規模の引き下げとなり、生活保護の利用世帯の約9割に深刻な影響を与えたとされます。

 基準額引き下げは憲法25条に反すると取り消しを求め、29都道府県で裁判が起こされ、1000人近くが原告となっています。熊本地裁では36人が、国の決定に基づき引き下げを決めた熊本市などに取り消しを求めてきました。

 判決では、引き下げを決めた厚労相の判断は「統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見等との整合性を欠いている点で過誤、欠落がある」と認定し、厚労相は「裁量権を逸脱または濫用した」と批判しました。

 厚労省は引き下げを決める際、生活保護利用世帯の基準額と、一般の低所得世帯の消費実態との間に乖離(かいり)があり、その是正のためだと説明しました。この点について判決は、専門の会議での分析や検証をしていないことを厳しく批判しました。厚労省が内閣官房副長官と書面で協議し、専門の会議に諮ることなく、政府の予算編成スケジュールに合わせるために「内部的に決定していたことがうかがわれる」とも指摘しました。引き下げありきで決定した道理のなさは明白です。

 判決は、物価下落を反映したとする「デフレ調整」という手法を引き下げの根拠にしたことも合理性がないとしました。21年の大阪地裁判決も、「デフレ調整」は生活保護利用世帯が購入機会の少ないパソコンなどの物価下落が大きかったことや、原油高などで特異な物価上昇があった08年を起点にしていることなどから違法性を認めていました。熊本地裁は、その指摘に加え、ここでも専門家の複合的・多角的な分析や検討を怠っていたことを強調しました。

権利が保障される制度へ

 生活保護費の基準額は、就学援助など暮らしの多くの制度に連動しています。そのため13~15年の引き下げでも、小中学生のいる世帯などへの支援にも大きく影響しました。違法な引き下げで多くの国民に苦難をもたらした安倍政権の姿勢が厳しく問われます。

 コロナ禍で職を失う人が相次ぐ中で、「最後のセーフティーネット」としての生活保護の役割はますます重要になっています。制度の改善・拡充を急ぐとともに、国民が使いやすい生活保障の仕組みへと抜本的に改定する必要があります。


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