2022年5月21日(土)
主張
女性差別入試判決
不利益強いる大本の解決図れ
順天堂大学の医学部入学試験で、女性を理由に合格基準で差別的な扱いを受けた元受験生13人が損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は「性別という属性のみによって一律に不利益に取り扱った」不法行為だとし、同大学に賠償を命じました。医学部入試での女性差別をめぐって、元受験生が大学を提訴した裁判での判決は初めてです。判決は、大学が性別による差別を禁じた憲法14条の順守義務を負っていることを指摘しました。
入試の際、女性に不利益を強いたのは同大医学部だけではありません。女性差別を生み出す大本をただす取り組みが不可欠です。
意思決定の自由も侵害
医学部・医大の入試で女性や浪人生を差別的に扱っていた問題は2018年に発覚しました。文部科学省の調査では、10大学で「不適切な事案」が確認されました。順天堂大は、遅くとも08年度入試から女性の合格基準を一律に高く設けるなどの不正があったと公表しています。原告は11~18年度に受験し、不合格になりました。
判決は、性別を理由に不利益に取り扱う判定基準について「本来医学部の入学試験の目的であるはずの医師としての資質や学力の評価とは直接関わりのない事柄によって合否の判定を左右するもの」で、不合理な差別としました。
受験生にとって、入試への応募は「その後の人生や職業に影響を与えうる極めて重要な意思決定にかかわる行為」(判決)です。ところが同大は、募集要項などで、差別的な判定基準を公表せず、むしろ性差のない教育方針をとる姿勢を示していました。このことについても判決は、「信義則上の義務」に反すると断じ、どの大学を受験するかどうかの「意思決定の自由を侵害した」と述べました。
公正さが厳格に要求される入試の根幹をゆがめた不当性を明確に示した判断は重要です。
一方、「大きな精神的苦痛を被ったであろうことは想像に難くない」としつつも、慰謝料認定は1回の受験当たり1人30万円と請求(総額5480万円)を大きく下回りました。弁護団は「差別された苦痛を正面から評価していない。低すぎる」と批判します。
医学部の入試差別の発覚を受け、文科省は緊急調査を行い、不適切事例が判明した大学では対策に動きました。男女の合格率の格差も縮小傾向です。しかし、受験者数では男性の7割程度です。女性が医師を目指すのに不利となる環境が改められている状況とは言えません。出産・子育てなどを理由に女性医師の採用を敬遠する風潮も根強くあるとされます。背景にある医師の過酷な働き方や医師不足の解決など、抜本的な打開策が急がれます。
多様性のある職場でこそ
原告の1人は判決を受け、「男性医師が大部分を占める多様性のない職場で、さまざまな背景を抱えた患者さんに寄り添った治療ができるのか」とコメントしました。性別に関係なくさまざまな人が働きやすい病院であることが、今後の医療従事者が病院を選ぶ基準になってくると述べた上で、「国民にも、医師の長時間労働の問題と女性医師差別の問題が密接に関わっていることを知ってほしい」と訴えています。原告が裁判に込めた思いに政治は正面からこたえなければなりません。








