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2022年4月26日(火)

2022焦点・論点

ウクライナ侵略に乗じた核軍拡大合唱

ピースデポ特別顧問・長崎大学核兵器廃絶研究センター客員教授 梅林宏道さん

「核共有」は時代錯誤、悪しき遺産 廃絶目指し9条に基づく外交こそ

 ロシアがウクライナ侵略で核兵器の先制使用の脅しを繰り返すなか、「核抑止」論は成り立つのか、“日本でも「核共有」の議論を”とあおる安倍晋三元首相や維新の会の動きをどうみるか、ピースデポ特別顧問で長崎大学核兵器廃絶研究センター客員教授の梅林宏道さんに聞きました。(伊藤紀夫)


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うめばやし・ひろみち 1937年、兵庫県生まれ。NPO法人ピースデポ特別顧問、長崎大学核兵器廃絶研究センター客員教授。初代センター長、工学博士。著書は『非核兵器地帯―核なき世界への道筋』『在日米軍』『北朝鮮の核兵器』など多数

 ―核兵器の先制使用も辞さないというロシアのプーチン政権の侵略に直面し、もはや核兵器による抑止どころか、実際に使用される危険が迫っているのではないでしょうか?

 プーチン政権もそうですが、米国もトランプ政権以来、核兵器は実際に戦場で使う兵器、戦争を有利に導くための兵器と位置付け始めました。そういう意味では核兵器は抑止のための兵器であって、実際に戦場で使う兵器ではないという「核抑止」論は破綻し、核兵器が実際に使用される危機だと思います。

 戦場使用の核兵器という考え方は、局地的に限定して核兵器を使うという理屈で、以前からありました。そこには仮定があって、戦術使用の核兵器が大きな核戦争には発展しないという勝手な思い込みです。

 小型の戦術核兵器は1キロトン級です。広島、長崎に投下されたものは10キロトン級で、現在、普通の核兵器は数十から数百キロトンの威力を持っている水爆です。それらに比べると、1キロトンは確かに小型ですが、それでもその威力は通常爆弾では不可能で、質的に違うレベルの兵器になります。その敷居を超えたら、10キロトン、数十キロトンと核兵器の使用がエスカレートしていく。戦術核兵器の使用は戦術にとどまるというのは幻想で、核兵器の有用性を宣伝するための誤った議論です。

 米国のシュレシンジャー元国防長官は2008年に「われわれの一貫した目標は核兵器の実際の使用を避けることであったが、核抑止力は毎日使用されており」といっています。核抑止力は日々、使われているというのが彼の認識で、毎日、核戦争の準備をし、訓練もし、運用・維持しているということです。

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(写真)ロシアのウクライナ侵略に抗議の宣伝をする北海道原水協の人たちと交流するウクライナからの避難者=6日、札幌市

 ―「核共有」論についてはどうですか?

 核共有をいっている人たちは日本の核武装も視野に入れて、この議論を持ち出していると思います。NATO(北大西洋条約機構)のなかのドイツ、オランダ、ベルギー、イタリアの4カ国、さらにトルコが米国の核兵器を共有している、日本もそれができるといって、核保有のハードルを下げる議論に利用しているように見えます。

 しかし、それはNATOにおける核共有体制の歴史を踏まえない時代錯誤の議論です。

 米国とソ連による冷戦時代の初期には、欧州では圧倒的にソ連の通常兵器が強かったので、それに対抗するために米国は多数の核兵器を欧州に配備し、同盟国とそれを共同運用するルールをつくってきました。

 そういうなかで、米国もソ連もドイツが核武装することなどを恐れて核保有国を制限しようとつくられたのがNPT(核不拡散条約、1968年署名、70年発効)です。それをつくるときに欧州の核共有については、米国は既成事実を壊したくないし、ソ連もワルシャワ条約機構の国と核共有する選択肢も得られるので黙認した。これが歴史的経緯です。

 しかし、核共有体制に組み込まれている国の航空機に米国の核爆弾B61を載せて投下する任務を担うことが知られていくと、NPT再検討会議や再検討準備委員会で必ず問題になり、これはNPTに違反しているという議論が続いています。

 NPTは核兵器保有5カ国を含めた全会一致制なので、核共有がNPTに違反しているという文書はだせませんが、その抜け穴を実質的にふさぐ文言を何度も合意してきました。

 核共有体制は、冷戦初期の異常な時代につくられた悪(あ)しき遺産です。それを克服して非合法化しようと動いているのが、現在のNPT体制なのです。

 NPT体制を重要視する日本が、この体制の抜け穴を自分たちが利用するという核共有論は、国際的に恥ずかしいことです。

 とくに日本は唯一の戦争被爆国で、非核三原則があります。核共有は核兵器の製造はしないが、「持たない」「持ち込ませない」という二つの原則を完全に破るもので、絶対に認められません。

 NPTで核共有の抜け穴をふさごうとしている国ぐには、核兵器禁止条約を推進してきました。“核保有国は核軍備縮小・撤廃のために誠実に交渉を行う”というNPT6条を生かして核兵器廃絶を目指しているのです。

 被爆国の日本政府こそ核兵器禁止条約を批准すべきで、最低限、6月に開かれる締約国会議にオブザーバー参加すべきです。条約は「核の傘」への依存も禁止しています。日本はその政策を転換してこそ条約に参加できると思います。

 ―ロシアの侵略を受けて、自民党や維新の会などから、軍事力や軍事同盟の強化、核共有を求める「大合唱」が起こっていますね。

 本来、この事態から学ぶべきことと逆の議論です。いま一番大事なメッセージは、軍事力によらない平和が可能だということです。

 ロシアはNATO東方拡大への危機感を理由に無法な侵略を合理化しています。軍事同盟や軍事力は戦争を防ぐどころか、誘発していることこそ教訓です。

 核兵器もまさにしかりです。使われてしまったら事態は一変する危険があるにもかかわらず、ロシアに核兵器があるから、使用の危機に直面しているのです。戦争を防ぎ、核兵器廃絶をめざすことが、今回の最大の教訓です。

 いまこそ、信頼醸成が重要で、平和に向かっている日本の姿勢を絶えず相手に伝える外交、憲法9条にもとづく外交が大切だと思います。


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