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2022年3月31日(木)

反リンチ法が成立

米黒人 100年以上のたたかい

 【ワシントン=島田峰隆】バイデン米大統領は29日、人種差別に基づくリンチ(私刑殺害)をヘイトクライム(憎悪犯罪)として罰する法案に署名し、同法は成立しました。

 リンチ実行者には最高30年の禁錮刑を科します。下院は2月に法案を圧倒的多数で可決し、上院は3月に全会一致で可決しました。

 バイデン氏は署名後の演説で、黒人市民が投票、通学、商売をしようとしただけで白人からリンチを受けて、遺体が木につり下げられてきたと苦難の歴史を回顧。「黒人が勝ち取った市民権を組織的に壊すテロだった」と批判しました。現在も続く憎悪犯罪を「全員で止めねばならない」と訴えました。

 リンチを犯罪として禁止する法案は、1900年に当時唯一の黒人下院議員によって最初に連邦議会に提出されました。以来、主に南部出身の議員の反対で、200回以上も廃案となってきました。

 南部アラバマ州のNGO「公正な裁きのイニシアチブ」のブライアン・スティーブンソン局長は29日、「米国が偏見に基づく憎悪や暴力を決して許さないという約束だ」と歓迎。本来は1世紀前に成立しているべき法律だが、「すべての国民の生命を守り、暴徒の暴力を二度と許さない新たな時代へ進むうえで遅すぎることはない」と指摘しました。


解説

正義への新しい時代画す

 人種差別リンチ処罰法の成立について、人種差別克服に取り組む団体は、「政府がリンチを公式に違法とした」と評価し、「正義を勝ち取るたたかいの新しい時代を記した」と歓迎しました。リンチ殺人が行われても、まともに処罰されてこなかった米国では、画期的な法律です。

 南部アラバマ州のNGO「公正な裁きのイニシアチブ」によると、南北戦争が終わった1865年から1950年の間に、黒人に対するリンチは記録に残っているだけで約6500件ありました。しかしリンチを行った白人が有罪になった例はほとんどありません。1900年以降のリンチ事件のうち実行犯が有罪とされたのは全体の1%でした。

 法律は、1955年に白人によるリンチで惨殺された黒人少年の名前にちなんで「エメット・ティル反リンチ法」と名付けられています。ティル少年(当時14歳)は、シカゴから南部ミシシッピ州を訪れましたが、白人女性に声をかけたとしてとがめられ、白人男性に連れ去られて殺されました。

 犯人は特定されたものの、白人陪審員は無罪評決を出しました。少年の母親は、原形をとどめない息子の遺体を葬儀参列者や新聞記者に公開し、リンチを全米に告発。ティル少年は、黒人の権利獲得・差別撤廃を目指す公民権運動の象徴的存在ともなりました。

 2020年に中西部ミネソタ州で、黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫されて死亡。事件に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動が広がり、リンチは形を変えて今も続いているとの声が強まったことも、同法を後押ししました。(ワシントン=島田峰隆)


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