2022年3月28日(月)
きょうの潮流
約1000点の短編を残し、“ショートショートの神様”と呼ばれた星新一。その作品群は寓意(ぐうい)あふれるものが多い▼その一つ、「おーい でてこーい」は、台風被害で村の社(やしろ)が流されたところから始まります。その跡地で見つかったのは直径1メートルほどの「穴」。とてつもなく深く、石を投げこんでも拡声器で音量を最大に鳴らし続けても、反響はない。その穴を社の再建を引き換えに利権屋が買い取り、ゴミ処分場にする▼穴に投げ込まれるのは、不要になった役所の機密書類、伝染病の実験に使われた動物の死体、婚約のきまった女の子の古い日記…。驚くのはゴミの筆頭に「原子炉のカス」をあげていることです。〈原子力発電会社は、争って契約した。村人たちは、…数千年は絶対に地上に害は出ないと説明され、また、利益の配分をもらうことで、なっとくした〉▼書いたのは1958年。日本初の原子力発電が行われた5年前です。そのとき既に、今も未解決の「核のゴミ」最終処分場問題を予見していたことに驚きます。〈つぎつぎと生産することばかりに熱心で、あとしまつに頭を使うのは、だれもがいやがっていたのだ〉と▼物語は天罰を暗示して終わります。星新一らしい皮肉を込めたオチです。それから64年。電力需給切迫を口実に「原発を再稼働しないと大変なことになる」と主張する経団連会長。ロシアの原発攻撃を見れば、どちらが大変かは一目瞭然でしょう▼星新一が生きていれば何と言うか。人類への警告に耳を傾けたい。








