2022年3月22日(火)
きょうの潮流
もうすぐ15歳になる若者は、焼け跡のラジオで敗戦を知りました。当時11歳だった少年は、中国東北部の旧満州で終戦を迎えました▼先の青年は、戦後最も売れた作家といわれた西村京太郎さん。終戦の年に将校を育てる陸軍幼年学校に入り、盾となって天皇を守れとたたき込まれました。のちに当時の心境をこう語っています。「自分は勇ましく死ぬんだと思いこんでいた。狂気が“普通”になっていた」▼ソ連軍の侵攻から命からがら日本へ引き揚げたのは、戦後の映画黄金期を代表する俳優となった宝田明さん。戦争によって一般の人びとのくらしがほんろうされ、悲惨な目に遭う姿を目の当たりにしてきました▼西村さん91歳、宝田さん87歳。ともに今月、人生の幕をおろしました。昭和ひと桁世代として、戦争の愚かしさ、怖さ、罪深さを語り、二度と起こすまいの思いを発しながら▼体験を『十五歳の戦争』にまとめた西村さんは近年、ミステリー作品の中にも戦争や原爆の不条理をおりこみました。宝田さんも憲法9条は世界の宝だと訴え、時代を逆戻りさせる政権の動きに警鐘を鳴らしました。そこには後世への不戦のメッセージが込められています▼ふたりにはこんな接点も。西村さん人気の十津川警部シリーズがドラマ化されたとき、第1作の主人公を演じたのが宝田さんでした。それぞれの舞台で活躍しながら、決して離さなかった反戦平和の信念。いま戦争の現実が目の前に展開されるなか、彼らの願いが強く響いてきます。








