2022年2月27日(日)
シリーズ 維新の会 その実像は
政治手法とメディア利用
分断とウソ 言論封じ
昨年の総選挙で公示前の11議席から41議席に伸ばした日本維新の会。同党はどんな手法で支持を集めてきたのでしょうか。そこには日本の民主主義を危うくする大きな問題があります。その政治手法とメディア利用の実態を見ました。
メディア支配の意識 強く
「これだけ毎日毎日、吉村(洋文)知事の発言が流れてくるのは異様です」。大阪のあるテレビ関係者はこうあきれます。
異常な回数
コロナ禍のもとで、他の都道府県でも知事の会見や囲み取材での発言がニュースとして流れることはありますが、大阪の場合はそれに加えて、知事自らがテレビ番組に出演する回数が際立っています。
維新副代表も務める吉村知事の番組出演回数は府の「知事の日程」で確認できるものだけでも、2020年に80回、21年に50回を超えています。維新の創設者・橋下徹元大阪市長も21年、年間250回超の出演を重ねました。
なかでも異常だったのが、今年元日に放送されたMBS(毎日放送)番組です。
バラエティー番組「東野&吉田のほっとけない人」の特番(2時間)のほぼ半分が、維新代表の松井一郎大阪市長と吉村、橋下両氏の出演企画でした。話題は文書通信交通滞在費問題、万博、衆院選の評価、維新の今後にまで及び、橋下、松井両氏が「いつか総理になると思う人」に吉村氏の名前を挙げる一幕も。吉村氏が大阪市民が住民投票で2度否決した大阪「都」構想(大阪市の廃止・分割)を維新は「掲げ続ける」と語る場面もありました。まるで維新のPR番組です。
「政治的公平性を欠く」という批判がわき起こる中、MBSは社内調査チームを発足させました。
萎縮と迎合
前出の在阪テレビ関係者は言います。
「さすがに局内からも批判が出て調査になったのでしょうが、もともと大阪のテレビはコロナの対策会議の報道には力を入れても、政策が出てくるプロセスや府市の議会で各党がどう主張しているかの議論を追い切れていない。首長の会見の垂れ流しや番組出演も多い。維新の府・市政で、メディアが萎縮しているというよりも、メディア側が忖度(そんたく)、迎合しているのではないか。“何が権力監視だ”と言われても仕方がない状況です」
さらに、読売新聞大阪本社が昨年12月に府と異例の「包括連携協定」を締結。読売側は報道活動とは関係ないとしていますが、権力とあまりにも近い関係に多くのジャーナリストたちが批判の声をあげています。
非難と圧力
なぜこんな事態になったのか。大阪市に住むジャーナリストの幸田泉さんは言います。
「もともと橋下氏がタレント弁護士だったことや、メディア側が自ら追随している問題もありますが、維新が、テレビなどが取り上げやすい話題を次々と仕立てあげる一方で、批判的な報道には徹底して圧力をかけてきたことも影響しています。維新はメディア支配への意識を強く持ち、それを権力闘争の一環と考えているのだと思います」
最近でも、12日放送のTBS系番組「報道特集」が、直近の大阪のコロナによる死者数が人口あたりで東京の3倍以上となっているなどの事実を報道したことに対し、大阪維新幹事長の横山英幸府議が「内容が偏っている」として放送倫理・番組向上機構(BPO)に意見を申し入れたと公表しました。
意見は、番組が「特定の事実だけを抜き出し視聴者の不安を煽(あお)る内容」だと非難。「保健所業務のひっ迫」は「大阪に限らず他の自治体も抱えている」などと攻撃しました。
市民からは、「MBSの元日番組と『報道特集』と、どっちがBPO案件なのか」との声も上がっています。
デマを拡散 共闘を攻撃
維新の政治手法の一つはデマで失政を隠し、実績を誇張することで「改革者」として振る舞うことです。「維新になってから保健所や医療機関を減らした事実はない」―。1月30日のNHK「日曜討論」での音喜多駿政調会長の発言もその一つです。
病床を削減
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事実はどうか。18年に病院存続を求める住民の声を無視して周産期・小児医療の拠点だった大阪市立住吉市民病院を廃止するなど医療機関の統廃合を進め、コロナ禍のもとで医療崩壊を招きました。
橋下徹前代表ですら「大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など」(20年4月3日、ツイッターへの投稿)と告白したほどです。
その上、コロナ患者治療の中心となる急性期病床を20年度に229床も削減。21年度はさらに減らそうとしています。
また、昨年の総選挙では、吉村洋文府知事を先頭に「大阪は私立高校の完全無償化を実現」したと演説しました。しかし、対象世帯は年収590万円以下に限られ、府内在住の44・5%にとどまります。(21年3月、府教育庁私学課)
府のホームページは「入学金のほか、教材費、修学旅行費積立金等の費用も必要」と説明しており、“完全無償化”とは言えません。
翼賛を推進
人々の中に対立を持ち込み、分断をつくることも維新の手法の一つです。そのことが端的に表れているのが野党攻撃です。
維新は、昨年の総選挙で「私たち以外の野党は審議拒否」「文句ばっかり」などと根拠のない野党攻撃をくり返しました。しかし野党は昨年7月、コロナ第5波が広がるもとで憲法53条に基づき、政府に新型コロナウイルス対策などを審議するための臨時国会召集を求めていました。
また野党は、PCR検査の拡大、持続化給付金、家賃支援給付金、学生支援給付金などを提案し、実現させました。維新の主張は全くのデマでした。
維新は総選挙中、街頭演説やテレビ番組などで「野党共闘は野合だ」「外交・安全保障を横において政権選択選挙で有権者の信を問うのは無責任だ」(松井代表)などと述べ、共闘分断を図りました。
昨年10月24日のNHKの討論番組でも松井氏は同様の攻撃を行いました。これに対し日本共産党の志位和夫委員長は、市民連合と4野党が結んだ共通政策を示し、「野党共通政策を読んでから言ってほしい」と反論。一例として「安保法制の違憲部分の廃止」は、「集団的自衛権を行使するのはやめようということだ。安保・外交の一番の根幹部分でしっかり合意している」と指摘しました。松井氏はまったく反論できませんでした。
維新は総選挙後も共闘分断工作を強めています。
2月に入り、立憲民主党、維新や国民民主党などによる共産党を除く国対委員長代理間の協議の場を設定する動きが起こりました。共産党の小池晃書記局長は14日の記者会見で「自民党や公明党、維新による、改憲、暮らし破壊の翼賛体制づくりに対し断固として対決する姿勢を確立することがとても大切なときに、野党としての立場が問われる」と指摘。翌日、立民が共産党を除く協議の場の設定について撤回し、謝罪しましたが、維新はこの指摘にかみつくなど、共産党排除に躍起となっています。
強権的手法
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維新は自身への批判を強権的手法で封じようとしていることも目立ちます。
15日の衆院予算委員会の中央公聴会で、維新が推薦した公述人の原英史政策工房代表取締役が予算案とは全く関係のない自らの係争中の案件について公述し、「野党合同ヒアリングはいわば集団リンチ」などの暴言を吐きました。
共産党の宮本徹議員は「私的な反論をとうとうと述べることは予算委員会の公聴会のあり方としてふさわしいのか」と批判しました。
維新は17日、宮本議員の発言に抗議し、こともあろうに懲罰動議を提出。衆院規則83条は「公述人の発言は、その意見を聴こうとする案件の範囲を超えてはならない」と定めており、宮本氏の批判は当然です。維新の懲罰動議は全く不当な言いがかりです。
維新の動きに、「懲罰動議に値するものでもなく、動議の提出はそれこそ言論の自由を侵すものです」(社民党公式ツイッターアカウント)などの批判が野党や市民から上がっています。
維新の攻撃は一般市民にも向けられています。松井大阪市長は13日、お笑いコンビ「浅草キッド」の水道橋博士のツイッターへの投稿について「法的手続きします」と返信。さらに同投稿を「リツイート(拡散)した方も同様に対応します」と書き込み、市民へのスラップ(恫喝=どうかつ)訴訟の行使をほのめかしました。
根拠のないデマを振りまく一方、自身への批判は強権的な手法での封じ込めを狙うなど、維新の異常な姿勢を示しています。