2022年2月16日(水)
きょうの潮流
「なんのためにこのような苦しみがあるのか。なぜわが民族がこのような罰を受けるのか」。終わりなき受難の歴史を描いた叙事詩は哀愁に満ちていました▼ウクライナの民族独立をめざすなか、みずからの言語による独自の文学を模索してきた戦後の作家たち。その短編集が翻訳されて日本でも出版されています▼「ウクライナでは、一人ひとりがそれぞれの魂の奥底で悩み、泣き、祈った。代わりに引き受けてくれる者は誰もいなかったからである」。作品の一編につづられているように、収められた小説にはどれも悲しみや嘆きが込められています▼西欧とロシア、アジアを結ぶこの地は幾多の民族が行き交いました。長い忍従の歴史、いまも傷あとが残るスターリンによる粛清や大飢饉(ききん)、そして戦争。ヨーロッパの穀倉といわれるほどの豊かな大地に恵まれながら、つねに大国のかげにおびえ、東西のはざまで軍事対立にほんろうされてきました▼苦難の国は、いままた力の脅威にさらされています。欧米の軍事同盟NATOの拡大中止を要求するロシアが国境沿いに大軍を展開。迫りくる侵攻に世界の緊張が高まるなかで、話し合いによる解決の努力が続けられています▼岸田首相は侵攻時の制裁措置を米国などと調整しているといいますが、いまやるべきは軍事衝突の回避に力を尽くすことではないか。ウクライナでは戦前から徳永直(すなお)や小林多喜二らの小説が翻訳されていました。抑圧から解き放された社会、人間の自由な姿をもとめて。








