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2022年1月21日(金)

主張

大学ファンド

「稼ぐ大学」強要の愚策やめよ

 岸田文雄内閣は、成長戦略の一環として、政府が創設した10兆円の大学ファンド(基金)を活用し、「卓越研究大学(仮称)」をつくる「改革」に乗り出そうとしています。関連法案を通常国会に提出します。「学術の中心」(教育基本法)としての大学に、「稼ぐ大学」になることを強要する愚策です。

政財界が直接乗り込む

 政府は数校を卓越研究大学と認定する方針です。その大学は米国のハーバード大学のように、企業からの出資、大学債、独自基金による運用益、高額な学費などの自己収入を増やし続けなければなりません。

 認定されれば大学ファンドの運用益(政府の掲げる目標は年3000億円)から毎年数百億円の投資を受けられるようになります。これらの大学は3%の事業成長を果たす経営体となるために、学外者が半数以上占める「法人総合戦略会議(仮称)」を新設するガバナンス改革が求められます。戦略会議が経営の意思決定や学長の選考を行い、運営を監督します。

 大学ではこの間、教授会の権限が縮小され、学長に権限が集中してきました。戦略会議は学長を超える権限を持ちます。政財界が戦略会議に直接乗り込んで大学を支配しようという狙いです。

 政府は事業成長を監視し、目標を連続して達成していない場合は投資を打ち切ります。大学経営の目的が、教育研究を支えることではなく、教育研究を利用し毎年3%の事業成長を果たすことに変質するおそれがあります。

 旧帝国大学と早稲田大、慶応大など11の大学の事業成長率は平均0・2%です。3%の達成は容易ではなく、これを優先すれば教育研究が「稼げる」分野に偏重し、そうでない分野が淘汰(とうた)されかねません。国立大学の授業料上限の緩和も検討されており、学費値上げに道を開く可能性もあります。

 大学の基金の原資は一般的には寄付金ですが、大学ファンドの主な原資は借金(財政投融資)です。超低金利下では目標の運用益を出し続けることは至難の業です。リーマン・ショック級の事態が起きれば損失を出して、支援の中断や国への償還ができなくなります。

 岸田政権は、日本の研究力の低下を問題にし、その向上を牽引(けんいん)するためだとしています。しかし、研究力低下の原因は、国立大学運営費交付金などの基盤的経費を削減し、競争的資金に移す「選択と集中」により、地方大学など中小の大学の資金が枯渇し、研究が中断していることにあります。卓越研究大学制度は、「選択と集中」で資金が集まっている数大学に資金を投じるもので、大学間格差を一層拡大させます。

新自由主義からの転換を

 大学ファンドは大学を投資対象にするだけでなく、大学を投資する主体に変えるものです。成長分野だけに投資し、それ以外は淘汰する新自由主義そのものです。

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所は、日本と論文数が同程度のイギリス・ドイツを分析し、研究力向上のためには「上位層に続く層の厚みを形成するといった施策が必要」と指摘しています。

 日本の研究力を低下させた新自由主義的改革を改め、交付金の増額などで地方大学も含めて大学の基盤をしっかり支える政策への転換こそが求められています。


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