2022年1月3日(月)
きょうの潮流
今年は寅(とら)年。虎は生命力の強い、めでたい動物として多くの画人が挑んだ画題です▼英語のタイガーの語源は古ペルシャ語で矢を意味するチグリだと、博物学者の南方熊楠(みなかた・くまぐす)が著書『十二支考』で書いています。矢のように速く走るさまを表したのだそうです▼虎は才気煥発(かんぱつ)の象徴でもありました。昔の中国の官僚試験、科挙で最も重要な資格だった進士の合格者の掲示は「虎榜(こぼう)」と称されました。今年没後80年を迎える中島敦の『山月記』の書き出しに登場します。自分の才能に絶望するあまり、虎に変身してしまったエリートの苦悩と悲しみを描いて読み継がれる小説です▼十二支のうち空想上の生き物である竜を除けば、虎は最も希少な動物です。20世紀初め、アジア大陸に10万頭生息していたのが、いまや野生で3千~4千頭とみられます。人間の活動によって生息域が激減したことが原因です。森林開発、人との接触、駆除の繰り返しに加え、密猟や気候変動が絶滅の危機へと追い込みました▼虎は森林生態系の頂点に位置する動物です。絶滅すれば、虎が餌とする草食動物や、草食動物が餌とする植物の生態に影響し、森林の環境変化によって人間にも悪影響が及びかねません▼自然は多様な生物の均衡のうえに成り立っています。これを守ろうとするのが生物多様性条約です。今年は国際会議で採択されてから30年の節目となります。次の世代にどのような地球を手渡すのか。年賀状の虎の絵を見ながら考えてみてはどうでしょうか。








