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2021年7月16日(金)

新型出生前検査 全妊婦に情報提供へ

命の選別 拭えぬ懸念

 妊婦の血液から胎児の染色体疾患を調べる新型出生前検査(NIPT)をめぐって、営利目的の無認定施設が社会問題になっています。この検査は、日本産科婦人科学会の指針の下、日本医学会が認定した施設で実施するとして、2013年から始まりました。実施施設の基準策定や認証に国もかかわる制度が今夏にも発足する予定ですが、「命の選別につながる」との懸念の声が止まりません。(岩井亜紀)


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(写真)百溪英一さん

 出生児の3~5%が何らかの先天性疾患を持つと言われています。NIPTで調べるのは、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症)の染色体疾患で、先天性疾患の約18%にとどまります。陽性の結果が出た場合、確定するためにはさらに羊水検査などが必要です。

無認定128カ所

 多くの認定施設が参加する自主的組織の「NIPTコンソーシアム」では、13年度に7775件のNIPTを実施。19年度は約2倍の1万4288件になり、7年間で実施件数は8万6813件にのぼります。うち陽性者数が1556件で、中絶数は1083件です。

 他方、NIPTを実施した認定施設109に対し、無認定施設は128カ所です(20年11月現在)。厚生労働省によると、無認定施設のなかには美容外科・美容皮膚科も。これらの施設では妊婦などの不安や悩みに寄り添う適切なカウンセリングをしないまま妊婦が検査を受けている事例が多いなど問題になっています。

 そこで新制度下では、NIPTを含む出生前検査について妊婦やパートナーが正しく理解し、受けるかどうか判断できるよう各検査や対象疾患の情報を提供するとしています。

優生政策に道

 「ダウン症の人に関する情報は、ありうる合併症の羅列など否定的なものばかり」と、東都大学客員教授で日本ダウン症国際情報センターの百溪(ももたに)英一さんは話します。ダウン症の娘、さなえさん(38)は言葉が出ませんが、明るい性格だといいます。

 「厚労省の専門委員会で新制度に向けた審議をしました。その中で、障害者の人権や命について議論されなかったことは大問題です」と百溪さん。「すべての妊婦に出生前検査について情報提供するということは、全胎児の疾患の有無を検査するマススクリーニングにかけるということと同義です」

 茨城県教育委員会の女性委員は15年に、「妊娠初期に障害の有無が分かれば、障害児の出産を減らせる」などと発言し辞職しました。百溪さんは「国がこの発言と同じ内容をすすめることになり、優生政策につながります」と批判します。

 また、専門委員会がまとめた報告書は、社会問題化した無認定施設の規制については、具体的な対策を盛り込んでいません。

 報告書は「技術的には今後、NIPTで検出可能な先天性疾患がさらに増えていく可能性がある」と述べています。

 スウェーデンは、すべての妊婦に出生前検査に関する情報提供を義務付けています。同国の障害児学校教員、サリネンれい子さんは、こう指摘します。

 「出生前検査でいまはダウン症が標的だけど、今後、新たな疾患が対象になるかもしれません。私たちはどんな社会にしていくのかをともに考える必要があるでしょう」

 トリソミー症候群 ある染色体が1本余分にあり、合計3本になったものをトリソミーといいます。一般の遺伝情報が含まれる常染色体トリソミーには、胎児の13番目の染色体が1本多い状態で生まれてくる疾患13トリソミー(パトウ症候群)、18番目の18トリソミー(エドワーズ症候群)、21番目の21トリソミー(ダウン症候群)があります。


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