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2021年7月2日(金)

きょうの潮流

 作家の桐野夏生(きりの・なつお)さんが日本ペンクラブ第18代会長に就任しました。平和の希求と言論表現の自由を掲げる国際ペンクラブの日本センターとして1935年に設立されて以来、初の女性会長です▼記者会見では「いまジェンダー平等の視点は不可欠。私がここで引き受けなければ、何年も女性が選ばれなくなるかもしれないという危惧があった」と語りました▼初代会長の島崎藤村から正宗白鳥、志賀直哉、川端康成と続く歴代会長の名前をたどり念頭に浮かんだのは、桐野さんが小説『ナニカアル』で描いた作家・林芙美子の苦悩です。芙美子が男性中心の文壇でにらまれ、出る杭(くい)としてたたかれた時代から80年余。ついに女性が会長になったのだという感慨がありました▼深夜の弁当工場で働く主婦たちの犯罪小説『OUT(アウト)』、沖縄を舞台に底辺の若者を通して現代の貧困を暴いた『メタボラ』、福祉の崩壊した日本で生きるホームレスの少年が主人公の『優しいおとな』、親に捨てられスマホで身を売る女子高生の物語『路上のX』▼社会の裂け目に落ち込み搾取され虐げられている人々の側に立ち、痛みを書き続ける桐野さん。震災後には原発問題に切り込んだ『バラカ』を発表し、近作『日没』では自主規制と萎縮のはびこる社会での言論統制をテーマにしました▼「戦争の時まず犠牲になるは真実」。第1次世界大戦後、この気づきが国際ペン創設の契機となりました。言葉に関わる一人として表現の可能性を共に追求していきたいと思います。


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