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2021年4月24日(土)

きょうの潮流

 一枚の写真から思いを巡らせる。その人は、どんな人生を歩んできたのか。なぜ死ななければならなかったのか▼フォトジャーナリスト・安田菜津紀さんの写真展「照らす 生きた証を遺(のこ)すこと」(東京・新宿区で26日まで)は、亡くなった人たちの無言のメッセージで溢(あふ)れていました▼展示の中心は東日本大震災。岩手県陸前高田市で手話通訳をしていた安田さんの義母・佐藤淳子さんも、津波で犠牲になりました。最初に泥の中から見つかったのは車。淳子さんは1カ月後、川の上流で発見され、4年後、医師だった義父も亡くなりました▼短い解説に胸を突かれます。淳子さんは、以前から津波注意報が発令した際、聴覚障害のある人の家に走る人だったといいます。この日もそうだったのでしょうか。母の遺影を持って満開の菜の花の中にたたずむ息子・佐藤慧さんの写真が物悲しい▼安田さんが指針にしている義父の言葉があります。安田さんが撮影した、“奇跡の一本松”の写真が新聞に掲載され、その記事を見せにいった時のこと。義父は「あなたのように、震災以前の7万本の松と一緒に暮らしてこなかった人たちにとっては、これは希望に見えるかもしれない。だけど僕たちのようにここで生活してきた人たちにとっては、波の威力の象徴みたいに見えるんだよ」と▼震災から10年。メディアがつくる美談に違和感を持ってきた安田さん。「悲しみは乗り越えるべきものではない。悲しみを抱きながら歩むことに意味がある」。重い言葉です。


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