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2021年4月13日(火)

きょうの潮流

 憧れの女性の一人でした。美術家の篠田桃紅(しのだ・とうこう)さん(1913~2021)。3月1日に107歳で逝去後、絶筆となった『これでおしまい』(講談社)が出版され、回顧展が横浜・そごう美術館で開催されています▼5歳で初めて筆を持ち、書道にまい進し、誰にも支配されずに生きたいと自活のための習字教室を開いたのが22歳の時。何ものからも自由でありたい精神は、書の決まり事を軽々と超え、文字を解体し、独自の抽象表現を開きました。43歳で作品を携え単身渡米。世界的な評価を得ます▼引かれた線の潔さ、力強さ。墨の濃淡や色合いが生み出す豊かさ、深さ。回顧展では、作品名が掲示されていません。鑑賞者の想像を狭めてはいけない、先入観にとらわれず自分の目と心で味わってほしい、という作者の意向です▼題名も解説もないまま作品に向き合っていると、いつの間にか自分自身と対峙(たいじ)していることに気づきます。色や形に触発されて湧き出る感情や記憶は、快いものだけではなく、つらいものもあります▼それは、桃紅さんが看破した通り「絵というものは、現実を写すのではなく、現実が持っている夢や、怒りや悲しみのようなものを現実のなかから引き出して、それを別のかたちに置き換えたもの」だからでしょう▼「芸術は、富める人たちに奉仕するものではありません。どんなに貧しくても、芸術の恩恵は受けている。そういう世の中であってほしいと願います」―遺(のこ)された言葉が、コロナ禍でひとしお身に染みます。


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