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2021年3月25日(木)

きょうの潮流

 きりりとしまった柔道着がよく似合う人でした。得意の一本背負いで世界を制した古賀稔彦(としひこ)さん。53歳という、あまりに早すぎる訃報に胸が詰まります▼引退後に話を聞かせてもらったことがあります。いまだ記憶に残るのは、1992年バルセロナ五輪の金メダル獲得の裏で苦闘する姿でした。試合の10日ほど前の乱取りで左ひざ靱帯(じんたい)を痛めます▼頭をかすめたのは、けがより減量のことだったと。ベッドで寝たまま、どう4キロ落とすのか。「人は寝ているだけで1日1キロ体重が落ちる。食事を1日600グラムに抑えれば、10日で4キロ落とせるはず」。朝昼晩200グラムずつ。栄養補助食品やゼリーの表示グラム数を計算しながら口に運びました▼試合当日、ピタリと体重を落とし、ひざに痛み止めを打ちバルセロナの畳の上に。「あきらめからは何も生まれない。そこで頑張れば新しい自分を発見できる」。心の強さ、緻密さが生んだ金字塔でもありました▼8年前、柔道界の暴力指導が問題になったときの言葉も忘れられません。体罰や暴力が横行する現実を変えなくては。使命感が言葉に乗り移ったようにみえました。「私は体罰をしたことはありません。それは指導の放棄だと思うから。選手の成長を止めてしまうと思うから」「柔道界は体罰をやめようと宣言すべき」。本紙日曜版の1面で堂々と呼びかけました▼いつも誠実に、真っすぐに、柔の道を歩み続けた人。その穏やかな笑みがよぎるたび、深いため息が止まりそうもありません。


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