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2021年2月14日(日)

きょうの潮流

 「兄の愛情に接した私は、ふとんの中でしばらく泣いた」。岡山県の結核療養所で生活保護を利用して暮らしていた重症結核患者の朝日茂さん。手記『人間裁判』に、そう書いています。長年離れていた兄からの手紙が届いたのです。毎月送金するから元気になってと▼福祉事務所が兄に扶養照会を行い、茂さんの扶養義務があると迫りました。兄が「満州」から引き揚げて宮崎県に落ち着き間もなくのこと。妻と子ども4人、ぎりぎりの生活の中からのお金です▼茂さんは仕送りで栄養のあるものを食べ、体調の改善を思い描いたことでしょう。ところが、暮らしぶりが変わらないことを知らされました▼最低生活費の額は決まっているからです。収入があればその分を差し引かなければなりません。低すぎる生活保護基準では生きていけない。泣き寝入りはしないと、茂さんは提訴しました。朝日訴訟です▼茂さんのように援助してもらえる人はごくわずか。2016年の厚生労働省調査では、年46万件の扶養照会があり、経済援助につながったのは、たった1・45%でした。「現在の社会状況にそぐわない」「業務の負担が大きい」と訴える福祉事務所職員も▼扶養照会はまた、生活保護利用の大きな障壁になっています。コロナ禍のいまこそこの壁を取り除き、困った人が安心してたどりつける生活保護に。「自助・共助」ではなく、朝日茂さんが願った「権利としての生活保護」の確立への一歩です。家族の愛への涙が再び裏切られないためにも。


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