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2021年1月3日(日)

きょうの潮流

 生物学、民俗学をはじめ幅広い分野に業績を残した在野の学者、南方熊楠(みなかた・くまぐす)の代表作『十二支考』にはただ一つ、今年のえとである丑(うし=牛)の章がありません▼和歌山県田辺市にある旧宅隣の南方熊楠顕彰館で企画展「書かれなかった十二支考『丑』」を開催中です。牛について書いたメモや、原稿を催促された手紙を展示しています▼博覧強記の南方が、えとにかかわる古今東西の伝説、伝承を自由闊達(かったつ)に展開しながら、なぜ牛だけ欠けたのか。資料があまりに膨大なため「全然出来おらず」と弟子への手紙で訴えています。未完に終わった事情はこのあたりにあるようです▼南方を悩ませたほど、牛と人間のかかわりは密で古い。2万年前の作とされるラスコー洞窟の壁画には野牛の姿が生き生きと描かれています。ヒンズー教では神聖な生き物です。国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、家畜として飼育されている牛は約15億頭に上ります▼古代中国では地を耕す牛に万物を育てる願いを託しました。最古の部首別漢字字典『説文解字(せつもんかいじ)』には、天地の事柄は牛を引く耕作に始まると書いてあるといいます。「物」の字のへんが牛であるのもそのためとされます▼100年ぶりに感染症の世界的流行に見舞われて、昨年、社会のあり方を問い直す動きが各地でわき起こりました。凍った大地からすべての物を伸ばす力を持つといわれる牛の年、人間の尊厳を中心に据えた世へ、牛のようにしっかりと地を踏みしめて歩む年にしたいものです。


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