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2020年9月7日(月)

きょうの潮流

 亡き父のことを語った村上春樹さんの近著『猫を棄(す)てる』。みずから調べ、いつか文章にしなくてはならないと思っていた中身の多くは、戦争の体験でした▼3度の兵役。戦場での残虐な光景…。自身は命拾いしながら、仲間の無念を背負ってきた父親。その背中の厳しさを感じてきた息子。「戦争というものが一人の人間―ごく当たり前の名もなき市民だ―の生き方や精神をどれほど大きく深く変えてしまえるか」▼村上さんが書きたかったという「ただひとつの当たり前の事実」。それは戦後75年の今も全国の草の根の努力によって継がれています。今年の終戦記念日に発刊された『記憶の灯(あか)り 希望の宙(そら)へ いしかわの戦争と平和』もその一つ▼数多くの写真や資料を掲載し、日本の戦争をたどりながら石川県に残る戦跡を紹介。平和を求める運動とともに。A4判カラー刷りのガイドブックは、全体と地域の戦争をわかりやすく伝えています▼歴史学者の監修をはじめ、さまざまな市民の力の結晶。暗黒の時代に光をあて、ともした記憶の灯りから学び、今と未来に生きる人びとの希望となれば。発行に携わった戦争をさせない石川の会の神田順一さんは思いを込めます▼個々の時を呼び起こし、まとめたものは各地で。「歴史は過去のものではない。温もりを持つ生きた血となって流れ、次の世代へと否応なく持ち運ばれていくもの」。村上さんが示した歴史を受け継いでいくという責務をわれわれは忘れない。過ちをくり返さないために。


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