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2020年8月31日(月)

主張

感染米兵の移送案

日本の主権に関わる大問題だ

 今年3月下旬、米原子力空母セオドア・ルーズベルトで新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した際、陽性者を含む3000人以上の乗組員の移送先として、米軍が沖縄県と神奈川県の米軍基地を真っ先に検討していたことが議論を呼んでいます。結果的に乗組員は米領グアムで下船することになりましたが、日本という他国の領土に感染者を運び入れる計画を検討すること自体、極めて異常です。日本の主権に関わる大問題を看過することはできません。

沖縄社会に深刻な事態も

 ルーズベルトの集団感染では、最終的に陽性者が1248人に達し、1人が死亡しました。この問題を調査した米海軍の報告書(6月)は、次のような事実経過を明らかにしています。

 ルーズベルトはベトナム・ダナンからグアムに向けて西太平洋を航行中の3月24日に乗組員3人のコロナ感染を確認します。翌25日には、同空母を中心とする第9空母打撃群の司令官が、指揮権を持つ第7艦隊司令部に対し、乗組員の隔離場所として、沖縄県や神奈川県の米軍基地内の施設とグアムの民間ホテルを候補に挙げます。

 27日、ルーズベルトはグアムに到着します。この時点でグアムには十分な部屋数を確保できていませんでした。一方、第7艦隊司令部などは、沖縄の普天間基地や他の海兵隊基地に約3000室、神奈川県の厚木基地に400~600室の利用可能な部屋があると見積もります。

 28日には第7艦隊司令部が、第9空母打撃群司令官とルーズベルト艦長に対し、乗組員を沖縄に空輸する計画を作成するよう命じます。これに対し第9空母打撃群司令官は29日、グアムのホテル利用を提案しますが、第7艦隊司令部は第一候補である沖縄移送案を再び指示します。

 しかし、結局、第7艦隊司令部の上級機関である太平洋艦隊司令部は同日、(1)沖縄までの9時間の飛行中に感染を一層拡大させる恐れがある(2)日本政府との関係を複雑にする―という理由で、沖縄移送案を却下しました。

 重大なのは、こうした沖縄移送案について米軍が日本政府や沖縄県などと事前に協議しようとした形跡が一切ないことです。背景には、日米地位協定によって米軍が日本の出入国管理の手続きを免除されていることがあります。米軍は基地を自由に使用できる「排他的管理権」も与えられており、日本側は検疫さえできません。

 沖縄の地元紙・琉球新報8月21日付は、「ルーズベルトから沖縄への乗組員移送が実施されていれば、日本政府の了承なしに受け入れが進められていた可能性があった」とし、「3千人もの米兵が沖縄に上陸していれば、基地の外まで感染を広げ、沖縄社会に深刻な事態をもたらしていた」と危機感を表明しています。

米軍に毅然とした対応を

 しかも、米国防総省は沖縄移送案が検討された直後の3月30日に、基地や部隊ごとの感染状況を非公表としました。こうした状況の下で沖縄移送案が実行されれば、大量の感染者の存在が隠蔽(いんぺい)された恐れもありました。

 日本政府は今回の経緯を米軍に毅然(きぜん)とただし、地位協定の改定交渉を求めることが必要です。


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