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2020年8月28日(金)

黒人差別に声上げる時

大坂の決断と信念

 苦渋の決断だったのだと思います。

 テニスの大坂なおみ選手が26日、準決勝まで勝ち進んでいたウエスタン・アンド・サザン・オープンの棄権を表明しました。

 米国のウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性銃撃事件(23日)に抗議の意思を示すためです。

 大坂選手はツイッターでつづっています。

 「私はアスリートである前に一人の黒人女性です。また、黒人女性として、すぐそばには、私のプレーを見ることよりもはるかに大切な、目を向けるべきことがあると感じています」

 その淡々とした文面に並々ならない思いが透けてみえてきます。

 社会的な問題に積極的に発言してきたわけではなかった大坂選手が、なぜ、こうした行動をとったのか。その思いを知る一文があります。

 米国の雑誌「Esquire(エスクァイア)」に寄稿(7月1日)した文章です。

 そこでは新型コロナウイルスによって「自分の人生にとって、本当に重要なことは何か」を考えたとし、「今こそ自分自身の意見を語るときだと思った」とその心情を吐露しています。

人々と命悼む

 5月、米国でジョージ・フロイドさんが警察によって殺害された事件がきっかけでした。

 大坂選手は事件の動画をみて「心が張り裂ける思い」だったと記しています。そして、現場のミネソタ州ミネアポリスを訪れ、平和的な抗議活動に参加し、追悼の場所で人々とつながり、失われた命を悼んだと。

 「今こそ、構造的人種差別と警察の暴力にたいして声を上げるときなのだと決心したのです」

 やむにやまれぬ“心の叫び”でもあります。

 過去に受けたさまざまな痛みや偏見が自身を突き動かしていることは間違いありません。同時にテニスというスポーツによって、強い正義感、不正を許さないフェアな心が育まれていることとも不可分なはずです。

 人種差別はそれ自体、許されない人権侵害です。同時にスポーツの大原則を踏みにじります。国籍、人種、肌の色、言葉の違いを超え一堂に会し、平等に競い合うのがスポーツで、そこが崩れたら成り立たないからです。

 フロイドさんの事件以来、米国のスポーツ界は大きく変化しています。

根幹ゆるがす

 リーグや競技団体はこれまで「人種差別は政治問題」であり、「フィールドに持ち込む」なという態度でした。しかし、いまは政治問題以前にスポーツの根幹をゆるがすものとの立場に変わっています。

 そのため、フィールドでもリーグが率先して「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」を発信しています。今回もNBAや大リーグは、選手が試合を拒否したことを受け入れています。大坂選手は決して一人ではありません。

 「『人種差別主義者でない』ことだけでは、十分ではないのです。『反人種差別主義者』であることが必要であり、重要なことなのです」

 そう呼びかける大坂選手。苦渋の決断は、強い信念に基づく行動でもあります。

 (和泉民郎)


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