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2020年7月30日(木)

主張

特養職員 逆転無罪

「介護の萎縮」に歯止めかけた

 特別養護老人ホーム「あずみの里」(長野県安曇野市)で、おやつ中の入所者が急に意識を失い死亡したことをめぐり、准看護師が業務上過失致死罪に問われた裁判で、東京高裁は一審の有罪判決を破棄し、逆転無罪を言い渡しました。施設内での介護中に起きた入所者の事故で、職員個人が刑事罰の対象とされて起訴されたのは異例中の異例です。「これでは現場は萎縮してしまう」と介護・医療関係者を中心に無罪を求める声が大きく広がりました。一審有罪を覆した高裁判決は、「介護の実態を踏まえてほしい」という世論と運動が勝ち取った重要な成果です。

現場の実態踏まえた判決

 この裁判は、食堂でドーナツを食べていた85歳の入所者が突然意識をなくし、救急搬送先の病院で1カ月後に亡くなった事故(2013年)をめぐるものです。ドーナツを出した後、近くで他の入所者の介助をしていた准看護師が注意する義務を怠ったため、窒息死に至ったとして起訴されました。全介護が必要な別の高齢者に付き添って面倒をみていた事実などを無視した乱暴なものでした。

 一審(19年)の長野地裁松本支部は、死亡した入所者のおやつが事故6日前にゼリーに変更されていたのに、准看護師がその資料を確認しなかったことなどを挙げ、罰金20万円の不当な有罪判決を言い渡しました。

 これに対し東京高裁は、死去した入所者は、事故の1週間前まで、ドーナツなどを食べても嚥下(えんげ)障害は確認されておらず、ゼリーに変えたことも「感染症対策のため嘔吐(おうと)防止」を目的にしていたものとしました。おやつ変更の資料確認についても、介護職の情報共有のためのものであり、「准看護師が勤務の際にその資料を確認する義務」があるとした一審判決には「飛躍がある」と指摘し、「刑法上の注意義務に反するとはいえない」と認定し、無罪と結論付けました。事実を正確に認めた判断です。一、二審を通じた約73万人分の無罪を求める署名など国民の声で司法を動かしたのは画期的です。

 全国の多くの介護施設は、誤嚥(ごえん)や転倒など高齢者の不慮の事故リスクとつねに向き合っています。この裁判が関係者に大きな衝撃を与えたのは、どこの施設でも起きうる事故について警察が捜査に入り、検察が現場の実態や事実をみることなく安易に起訴に踏み切ったことです。さらに一審が検察の主張を追認したため、介護現場はいっそう萎縮し、それまでの固形のおやつをゼリー状に変更する施設も少なくなかったといいます。

 高裁判決が「間食を含めて食事は、人の健康や身体活動を維持するためだけでなく精神的な満足感や安らぎを得るために有用かつ重要である」と指摘したことは注目されます。高齢者が食事を楽しんだり、自由に体を動かしたりすることは、「生活の質」にかかわる問題です。高齢者に寄り添い、よい介護をしたいという現場の努力に逆行した捜査当局の責任は重大です。上告を断念すべきです。

大幅な処遇改善が不可欠

 全国の介護施設で高齢者が安全で穏やかな生活が送れるようにするためには、職員の余裕が必要です。現状の人手不足によるギリギリの体制では、職員は疲弊するだけです。介護現場の大幅な処遇改善がなにより急がれます。


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