2020年7月25日(土)
きょうの潮流
105歳で亡くなるまで生涯現役を貫いた医師の日野原重明さんには師と仰いだ人物がいました。今日の医学教育の基礎を築いたウィリアム・オスラー博士です▼「医は科学に基礎を置いたアートである」。日野原さんの座右の銘だった医学者の言葉は、そこに携わる者の心構えを説いたものでした。実際、オスラーは頭と心で患者を診て、人間愛にあふれていたといいます▼悔しさ、悲しみ、もどかしさ、やるせなさ、そして怒り。なんともいえない複雑な胸の内を語っていました。未知のウイルスとのたたかいの最前線でふんばる医師や看護師たち。そこに密着したNHKの番組が先日放送されました▼手探りの治療、急増する患者に追いつかない人手や医療機器、隣り合わせの院内感染。強いストレスと不安を抱えながら家族にも会えず、どんなにつらかったか。ギリギリの状態で命の危機とむきあう彼らも体制も崩壊の瀬戸際に▼そんな現場の労苦を想像だにしない政府を専門家が痛烈に批判しました。国のリーダーが「医療は逼迫(ひっぱく)していない」というのは誤りだ―。各地で最多となる感染拡大。課題は解決されず、コロナ対応のため病院経営も厳しく、従事者のボーナスさえ減らされる現状。その苦しさがわからないのかと▼オスラーには人の心情の琴線にふれ、多くの友となる心の豊かさが備わっていたと日野原さんは記していました。この国の首相には望むべくもありませんが、こうして声をあげつづけることで血の通う社会にしたい。








