2020年7月20日(月)
きょうの潮流
「スペイン風邪」は今から100年前、世界的に大流行した感染症です。5億人がかかり、世界中で数千万、日本でも38万人余が死亡。そのほとんどが2波、3波によるものでした▼当時の歌人、与謝野晶子は新聞の寄稿文でわが子が感染したことへの不満をつづっています。「人事を尽くす」ことが人生の目的なのに、あらゆる予防と抵抗を尽くさず、むざむざ病毒に感染して死の手にとらえられることは「魯鈍(ろどん)とも、怠惰とも、卑怯(ひきょう)とも、云(い)ひようのない遺憾な事」。予防と治療にすべての可能性をつくすべきだと(「死の恐怖」)▼いまの安倍首相や西村担当相、東京都の小池知事にも聞かせたい晶子の思い。別の評論「感冒の床から」にも、危険を防ぐために大工場や大展覧会、学校など多くの人間が密集する場所の一時的休業をなぜ命じなかったのかと政府を批判しています▼子どもたちの病気を何度か短歌にしていたことも。スペイン風邪の前になりますが、歌集「火の鳥」には〈わが子故(ゆえ)マリヤの像に抱かるるエスさへ病める心地するかな〉。子の身を案じる親の心情が切々と伝わってきます▼「死の恐怖」には、私が死を恐れるのは、私の死によって起こる子どもの不幸を予想して、できる限り生きていたいという欲望のためだ、との一節もあります▼再びコロナウイルスがひろがりをみせるいま、命を守るために人事を尽くす。時代をこえた呼びかけがよみがえります。〈われいまだ病みて命を護(まも)るより苦しきことに逢(あ)はざりしかな〉








